みんなに『カッコいい』と言われ、家ではお菓子を作る生活の中、ある時、ぷつんと糸が切れてしまったことがある。中学一年生の入学式のことだ。
その頃は制服がスカートしか選べなくて、嫌々スカートを履いて学校に行った。
でも実は私、初めてのスカートが嬉しかったんだ。今まで何となくずっとボーイッシュな服を選び続けていたから。
そんな、ちょっとワクワクしながら行った入学式で。もともと同じ小学校だった男子が私を見るなり叫んだ。
「え、広瀬がスカート履いてる?!」
私は、そのことに触れてもらえて、興奮と期待と不安がぐるぐるしていた。もしかしたら、生まれて初めて『かわいい』を貰えるかもしれないって。
でも。
「似合わねぇ~‼ きも!」
はじけるような笑顔とともに言われた言葉で、ストンと心臓が落っこちたように感じた。
体がカァァっと熱くなって、でも脳はびっくりするくらい冷えて。
「そ、そうだよね~! 自分でも違和感しかないんだよっ」
くっついたガムをひっぺがえすみたいに、無理やり唇の端を持ち上げる。
「そっか、うちの学校、女子はスカート強制なんだっけ。かわいそ~。このたよーせーの時代にさぁ。みんなで校長に言ってやろうよ、校則変えろって」
腸が煮えくり返る思いだった。本当に本当に最悪な気分だった。
は? 多様性? お前は、お前だけは、そこの言葉を使うな……!
でも何より一番つらいのが、『かわいそう』の言葉だった。
私は『かわいそう』なんかじゃない。こいつの言葉に傷ついてもいないし、スカートなんか似合わなくたっていい。だって強いから。私は、強いから。
そうだ、家に帰ったらお菓子をつくろう。なにがいいかな、プリンなんかいいな……。
ひたすらお菓子のことを考えて、それ以外を考えないようにして、家に帰った。誰もいないキッチンで卵を取り出しているとき、ふいに頬にあたたかい雫が伝った。
え、と思った。なんで泣くの、私。
悔しくないでしょ、傷ついてないでしょ。必死に自分に呼びかけるけど、涙はポロポロこぼれて、床にシミを作っていく。
泣きたくなかった。だって泣くって言うのは弱さを認めるってことだし、私には似合わないから。でも一度溢れたら止まらなくて、泣きながらプリンを作った。
出来上がったプリンは、やっぱり美味しかった。
美味しかったけど、自分の中のイガイガした気持ちとともに租借したら、死ぬほど不味かった。それでも我慢して飲み込んだら、嫌な気持ちもなくなった気がした。
結局、女子でもスラックスがオーケーになり、私はスカートを箪笥の一番奥にしまい込んだ。
それから私は、嫌なことがあってお菓子をつくっていると、たびたび泣いてしまうようになった。一度泣いて、涙腺が壊れてしまったようだ。泣いてしまう自分は嫌だったけど、泣いた後は幾分かすっきりするのも事実で。泣きながらお菓子を作って、嫌な気持ちをお菓子と一緒に飲み込んで、食べ終わったときにはもとの『カッコいい』私に戻る……そんな謎のルーティーンを繰り返していた。