けれど自宅に帰り、ベッドの上にダイブすると、ふとあることに気がついた。私を騙して何か得なことはあるのだろうか、ということに。
「盛り上げるため、とか? 違うクラスだから、あり得ないか。それに誰かを虐めている噂とかも聞いたことはないけど……」
あと、悪い噂も。けれどそういう一面がない、とは言い切れなかった。何度も言うように、私は小保木怜という人物を知らないのだ。
リアルとSNSの世界が違うように、私と小保木も違う世界の住人。物語でいうところの、モブと主人公ほどの差がある。
だから主人公は、気軽にモブに話しかけて、ストーリーを進める権利を持っているのだ。
あの日、窓の外を見た私の顔は、きっと強ばっていたことだろう。誰もいない校庭。部活が終わって早々に帰る生徒たち。そして静かになる教室。
学校という場所も相まって、“幽霊”という単語はより意味を成す。
「良かった。思い切って話しかけに行かなくて」
もう一度、話をしたい。その気持ちが強くなっていた直後だったから、恥をかかずに済んだ。
騙されるにしろ、からかわれたにしろ。これ以上、私からアクションを起こさなければいいだけなんだから。
私は自分に言い聞かせながら、そっと瞼を閉じる。すると、小さな吐息と共に、枕に沈んだ頭がゆっくりと規則正しい動きをし始めた。
***
カレンダーは秋の代名詞ともいえる十月に差し掛かろうとしているのに、未だに私たちの格好は半袖だった。
日差しも強くて、まるで夏に戻ったみたい。
天気予報でも、「今日は真夏日です」と夏がまだ終わっていないような口振りだった。
そんな中、行われた朝礼。校長先生の長いスピーチに辟易していた。
今日が暑いのは皆知っていることなのだから、手短に終わらせてほしい。ニュースは……見ていないけれど、ここで長々とする話ではないと思った。
それよりも、いつもはここで座らせてくれるのに、どうしたんだろう。先生たち、忘れているのかな。
周りを見ても、誰も不思議に感じないのか、ただ退屈していることだけは伝わってきた。
欠伸をしている者。小さな声で雑談を始めている者。足が疲れたのか、片足に重心を移動させている者さえいた。
そんな者たちを尻目に、私は校長先生の後ろにある校舎を見上げた。
五カ月後にはさよならをする学び舎。長かったようにも感じるのに、気がつくとこの三年間は短かったように思えた。
人はそれを充実しているから、というけれど、私にはそんな実感は湧かない。毎日を消化しているだけで精一杯だったからだ。
それはそんな心の隙を突きにやって来た。まるで油断した私が悪いかのように。
「えっ」
校舎の屋上に座る人影。それが何なのか、認識する前に私は、その場で蹲るように倒れてしまった。視界に入った、たったそれだけのことで。
何で、いやそれよりも早く立たないと。
けれど体に力が入らない。まるで、さっき見たモノに奪われてしまったのではないか、と思えるほどだった。
案の定、周りが騒ぎ出す。恥ずかしさも相まって、私は目をギュッと瞑った。
誰か助けて……。
すると、どこからか聞き覚えのある声が近づいてきた。
「あーちょっと、どいてもらってもいいかな」
えっ、何で? あっ、隣のクラスだから、見えたのかも。私が倒れた瞬間と校舎の屋上にいたモノの存在に。
そんなことを思っていると、急に体が浮き上がった。私は驚きのあまり、目を開ける。そこには当然、想像した通りの人物がいて……。私は思わず名前を呼んだ。
「……小保木?」
「良かった。……事情は分かっているから、一先ず保健室に行こう。倒れた拍子に怪我をしていると思うから」
「う、うん」
体の痛みは感じないけれど、周りの視線が気になり、私は再び目を瞑った。小保木の顔の角度から、今の私は横抱きにされている、と思う。多分。いや、絶対に。
一層のこと、倒れた拍子に気を失っていれば、どれだけ良かったことだろうか。さっき見た存在のことなど頭から吹っ飛ぶくらい恥ずかしかった。
***
しかし、保健室の椅子に座らされれば、いやでも話題は校舎の屋上にいたモノの話になる。あの場から助けてくれた理由を考えれば、容易に想像がつくのに。
自分が如何に間抜けなことをしたのか、小保木に指摘されるのが怖かったのだ。さっき見たモノの方が、よっぽど怖いはずなのに。
けれど、見ただけでこの醜態。情けなくて泣けてきた。
「どこか痛いところはあるか?」
「ううん、大丈夫。多分、腰を抜かしたようなものだから」
「そうか。まぁ、俺も身に覚えはあるからな」
「小保木も?」
意外だった。私なんかよりも幽霊に詳しそうだったから。
「慣れているのかと思っていた」
「そんなわけあるかよ。前にも言っただろう。向こうはいきなり現れるから、消化しきれないって。幽霊なんて、何度見たって慣れないよ」
「……でも私、立て続けに見たのって初めてなの。今までは、片手で数えるくらいしか見たことがなかったから」
だから余計に驚いたんだ。それに校舎の屋上にいたのは色のないモノ……つまり、正真正銘の幽霊だったから、余計にそう感じたんだと思う。
「……高梨は自分の霊感がどれくらいかって……分からないか」
「うん。でも、少ないと思う」
「俺よりも見る頻度が低いからな」
あぁ、そうか。だから小保木は私ほど、驚かなかったんだ。この間、初めて言葉を交わした時も、きっと。だから私の反応に気づくことができたんだ。
「大変そうだね」
「何言っているんだ。大変なのは高梨の方だぞ」
「え?」
何で、と小保木の言葉に私は首を傾げた。
「俺の予想だけど、霊感が強い奴の近くにいると、影響を受けやすいんだと思う。今回のこともそうだけど、この間のことも含めて。多分、俺が原因のような気がするから」
「そうなの? でもおかしくない? その理屈からしたら二年の時から、ううん。この学校に入学してからになるもの」
小保木とは同じ学年で隣のクラスなのだ。
けれど去年は幽霊を見た記憶はない。確かに見る頻度は低く、前回見たのを覚えていないと言っても、さすがに去年のことなら覚えていない方がおかしかった。
「いや、俺が高梨に意識を向けたのが、つい最近なんだ。名前とクラスも分かって、それとなく話をする機会を探っていたから」
確か、去年の文化祭のお礼だっけ。
「それだけで影響を受けるものなの?」
「分からない。近いっていうのが、どれくらいの距離なのかも分からないから。あと、高梨以外にも同じ奴が近くにいたのなら、化学反応みたいに連鎖したのかも」
「まぁ普通、幽霊が見えるって言い触らさないからね」
小学生でもあるまいし。
「そういえば小学生の時、小保木みたいに幽霊が見える子が近くにいて。あの時も見る頻度が高かった気がする。今思えば、の話だけど。これも影響を受けたってことなのかな」
「多分な。確かめる方法はないし、高梨もやりたくはないだろう?」
「うん。幽霊を見る実験は勘弁願いたいかな」
腰を抜かしたくらい怖かったんだから。何度も味わいたくない。小保木だって慣れないって言っていたくらいなんだから。
「とりあえず保健室の先生には、貧血で倒れたから少しだけ休ませてくれって頼んでおいた。さすがに幽霊を見たから、とは言えないからな」
「そ、そうだね。ありがとう」
「いや、いいんだ。さっきも言ったように、俺のせいかもしれないから」
「でもそれって、不可抗力でしょう。小保木が私に嫌がらせをしたくてしているの?」
楓との会話で疑ったこともあったけれど、今の小保木を見ていれば分かる。私を騙すとか、からかおうとしていたわけではないことが。
案の定、小保木は首を横に振ってくれた。
「違う。折角、俺と同じモノが見える奴に会ったんだ。そんな嫌がらせなんてできるわけがないだろう。むしろ……」
「むしろ?」
「もっと話がしたい。情報を共有できれば高梨だって、対処しやすくなるだろう? 今回みたいなことがないように、とか」
「う、うん。さすがにアレは恥ずかしかった」
もう二度と同じ体験はしたくない。けれど幽霊は、こちらのことなどお構いなしに現れるものだから困ってしまう。
「それと実は私も、小保木ともっと話をしたかったんだ。幽霊の話ができる相手なんて、小学生の時以来だから、色々と話をしたいことが多くて」
勿論、あの時よりも成長しているし、見たモノも増えている。けれど小保木ほど詳しくないから、色々と知りたかった。
こう言うと、小保木を利用しているみたいに感じるけれど、向こうもそれでいいって言ってくれているし……。
「私ばかりが頼るような感じになるけど……それでも良ければ、お願いします?」
「何で疑問形?」
「だって、秘密の友達みたいだから」
恥ずかしいじゃない。
「確かに、どういう関係と聞かれたら答え辛いよな。幽霊って言った瞬間、離れていきそう」
「でしょう」
「だからと言って、それ以外の言葉もないし」
うんうん、と私は頷く。それがおかしかったのか、小保木はクスリと笑ってポケットからスマホを取り出した。
「クラスも違うから、こうして話すチャンスもなかった。ずっと窺っていたらこの通り、一年近くかかっちゃったし。だから連絡先、いい?」
「いいよ。断る理由もないし。ただ、小保木を狙っている女子に悪いことをしているみたい」
「おいおい。俺にだって女友達くらい、いたっておかしくはないだろう」
「じゃ、その中の一人ってことで、よろしくね」
「おう」
良かった。これなら変に思われたり、勘ぐられたりすることはないだろう。
私も私で、また何か見たり、遭ったりしたら相談できる。そんな拠り所ができただけでも、小保木には感謝しなくては。
ふと、幽霊に関する小保木の知識はどこから来るものなのだろう。そう思った時にはすでに保健室の中は、私一人だった。
「貧血で倒れたことになっているんだから、大人しく寝ていろ」と言って出て行ってしまったからだ。
私はベッドの上で横になりながら、スマホを操作する。
【今日はありがとう】
とりあえず、今はこれだけ。さっき浮かんだ疑問はいつだって聞けるのだ。そう、これからはいつだって。
「盛り上げるため、とか? 違うクラスだから、あり得ないか。それに誰かを虐めている噂とかも聞いたことはないけど……」
あと、悪い噂も。けれどそういう一面がない、とは言い切れなかった。何度も言うように、私は小保木怜という人物を知らないのだ。
リアルとSNSの世界が違うように、私と小保木も違う世界の住人。物語でいうところの、モブと主人公ほどの差がある。
だから主人公は、気軽にモブに話しかけて、ストーリーを進める権利を持っているのだ。
あの日、窓の外を見た私の顔は、きっと強ばっていたことだろう。誰もいない校庭。部活が終わって早々に帰る生徒たち。そして静かになる教室。
学校という場所も相まって、“幽霊”という単語はより意味を成す。
「良かった。思い切って話しかけに行かなくて」
もう一度、話をしたい。その気持ちが強くなっていた直後だったから、恥をかかずに済んだ。
騙されるにしろ、からかわれたにしろ。これ以上、私からアクションを起こさなければいいだけなんだから。
私は自分に言い聞かせながら、そっと瞼を閉じる。すると、小さな吐息と共に、枕に沈んだ頭がゆっくりと規則正しい動きをし始めた。
***
カレンダーは秋の代名詞ともいえる十月に差し掛かろうとしているのに、未だに私たちの格好は半袖だった。
日差しも強くて、まるで夏に戻ったみたい。
天気予報でも、「今日は真夏日です」と夏がまだ終わっていないような口振りだった。
そんな中、行われた朝礼。校長先生の長いスピーチに辟易していた。
今日が暑いのは皆知っていることなのだから、手短に終わらせてほしい。ニュースは……見ていないけれど、ここで長々とする話ではないと思った。
それよりも、いつもはここで座らせてくれるのに、どうしたんだろう。先生たち、忘れているのかな。
周りを見ても、誰も不思議に感じないのか、ただ退屈していることだけは伝わってきた。
欠伸をしている者。小さな声で雑談を始めている者。足が疲れたのか、片足に重心を移動させている者さえいた。
そんな者たちを尻目に、私は校長先生の後ろにある校舎を見上げた。
五カ月後にはさよならをする学び舎。長かったようにも感じるのに、気がつくとこの三年間は短かったように思えた。
人はそれを充実しているから、というけれど、私にはそんな実感は湧かない。毎日を消化しているだけで精一杯だったからだ。
それはそんな心の隙を突きにやって来た。まるで油断した私が悪いかのように。
「えっ」
校舎の屋上に座る人影。それが何なのか、認識する前に私は、その場で蹲るように倒れてしまった。視界に入った、たったそれだけのことで。
何で、いやそれよりも早く立たないと。
けれど体に力が入らない。まるで、さっき見たモノに奪われてしまったのではないか、と思えるほどだった。
案の定、周りが騒ぎ出す。恥ずかしさも相まって、私は目をギュッと瞑った。
誰か助けて……。
すると、どこからか聞き覚えのある声が近づいてきた。
「あーちょっと、どいてもらってもいいかな」
えっ、何で? あっ、隣のクラスだから、見えたのかも。私が倒れた瞬間と校舎の屋上にいたモノの存在に。
そんなことを思っていると、急に体が浮き上がった。私は驚きのあまり、目を開ける。そこには当然、想像した通りの人物がいて……。私は思わず名前を呼んだ。
「……小保木?」
「良かった。……事情は分かっているから、一先ず保健室に行こう。倒れた拍子に怪我をしていると思うから」
「う、うん」
体の痛みは感じないけれど、周りの視線が気になり、私は再び目を瞑った。小保木の顔の角度から、今の私は横抱きにされている、と思う。多分。いや、絶対に。
一層のこと、倒れた拍子に気を失っていれば、どれだけ良かったことだろうか。さっき見た存在のことなど頭から吹っ飛ぶくらい恥ずかしかった。
***
しかし、保健室の椅子に座らされれば、いやでも話題は校舎の屋上にいたモノの話になる。あの場から助けてくれた理由を考えれば、容易に想像がつくのに。
自分が如何に間抜けなことをしたのか、小保木に指摘されるのが怖かったのだ。さっき見たモノの方が、よっぽど怖いはずなのに。
けれど、見ただけでこの醜態。情けなくて泣けてきた。
「どこか痛いところはあるか?」
「ううん、大丈夫。多分、腰を抜かしたようなものだから」
「そうか。まぁ、俺も身に覚えはあるからな」
「小保木も?」
意外だった。私なんかよりも幽霊に詳しそうだったから。
「慣れているのかと思っていた」
「そんなわけあるかよ。前にも言っただろう。向こうはいきなり現れるから、消化しきれないって。幽霊なんて、何度見たって慣れないよ」
「……でも私、立て続けに見たのって初めてなの。今までは、片手で数えるくらいしか見たことがなかったから」
だから余計に驚いたんだ。それに校舎の屋上にいたのは色のないモノ……つまり、正真正銘の幽霊だったから、余計にそう感じたんだと思う。
「……高梨は自分の霊感がどれくらいかって……分からないか」
「うん。でも、少ないと思う」
「俺よりも見る頻度が低いからな」
あぁ、そうか。だから小保木は私ほど、驚かなかったんだ。この間、初めて言葉を交わした時も、きっと。だから私の反応に気づくことができたんだ。
「大変そうだね」
「何言っているんだ。大変なのは高梨の方だぞ」
「え?」
何で、と小保木の言葉に私は首を傾げた。
「俺の予想だけど、霊感が強い奴の近くにいると、影響を受けやすいんだと思う。今回のこともそうだけど、この間のことも含めて。多分、俺が原因のような気がするから」
「そうなの? でもおかしくない? その理屈からしたら二年の時から、ううん。この学校に入学してからになるもの」
小保木とは同じ学年で隣のクラスなのだ。
けれど去年は幽霊を見た記憶はない。確かに見る頻度は低く、前回見たのを覚えていないと言っても、さすがに去年のことなら覚えていない方がおかしかった。
「いや、俺が高梨に意識を向けたのが、つい最近なんだ。名前とクラスも分かって、それとなく話をする機会を探っていたから」
確か、去年の文化祭のお礼だっけ。
「それだけで影響を受けるものなの?」
「分からない。近いっていうのが、どれくらいの距離なのかも分からないから。あと、高梨以外にも同じ奴が近くにいたのなら、化学反応みたいに連鎖したのかも」
「まぁ普通、幽霊が見えるって言い触らさないからね」
小学生でもあるまいし。
「そういえば小学生の時、小保木みたいに幽霊が見える子が近くにいて。あの時も見る頻度が高かった気がする。今思えば、の話だけど。これも影響を受けたってことなのかな」
「多分な。確かめる方法はないし、高梨もやりたくはないだろう?」
「うん。幽霊を見る実験は勘弁願いたいかな」
腰を抜かしたくらい怖かったんだから。何度も味わいたくない。小保木だって慣れないって言っていたくらいなんだから。
「とりあえず保健室の先生には、貧血で倒れたから少しだけ休ませてくれって頼んでおいた。さすがに幽霊を見たから、とは言えないからな」
「そ、そうだね。ありがとう」
「いや、いいんだ。さっきも言ったように、俺のせいかもしれないから」
「でもそれって、不可抗力でしょう。小保木が私に嫌がらせをしたくてしているの?」
楓との会話で疑ったこともあったけれど、今の小保木を見ていれば分かる。私を騙すとか、からかおうとしていたわけではないことが。
案の定、小保木は首を横に振ってくれた。
「違う。折角、俺と同じモノが見える奴に会ったんだ。そんな嫌がらせなんてできるわけがないだろう。むしろ……」
「むしろ?」
「もっと話がしたい。情報を共有できれば高梨だって、対処しやすくなるだろう? 今回みたいなことがないように、とか」
「う、うん。さすがにアレは恥ずかしかった」
もう二度と同じ体験はしたくない。けれど幽霊は、こちらのことなどお構いなしに現れるものだから困ってしまう。
「それと実は私も、小保木ともっと話をしたかったんだ。幽霊の話ができる相手なんて、小学生の時以来だから、色々と話をしたいことが多くて」
勿論、あの時よりも成長しているし、見たモノも増えている。けれど小保木ほど詳しくないから、色々と知りたかった。
こう言うと、小保木を利用しているみたいに感じるけれど、向こうもそれでいいって言ってくれているし……。
「私ばかりが頼るような感じになるけど……それでも良ければ、お願いします?」
「何で疑問形?」
「だって、秘密の友達みたいだから」
恥ずかしいじゃない。
「確かに、どういう関係と聞かれたら答え辛いよな。幽霊って言った瞬間、離れていきそう」
「でしょう」
「だからと言って、それ以外の言葉もないし」
うんうん、と私は頷く。それがおかしかったのか、小保木はクスリと笑ってポケットからスマホを取り出した。
「クラスも違うから、こうして話すチャンスもなかった。ずっと窺っていたらこの通り、一年近くかかっちゃったし。だから連絡先、いい?」
「いいよ。断る理由もないし。ただ、小保木を狙っている女子に悪いことをしているみたい」
「おいおい。俺にだって女友達くらい、いたっておかしくはないだろう」
「じゃ、その中の一人ってことで、よろしくね」
「おう」
良かった。これなら変に思われたり、勘ぐられたりすることはないだろう。
私も私で、また何か見たり、遭ったりしたら相談できる。そんな拠り所ができただけでも、小保木には感謝しなくては。
ふと、幽霊に関する小保木の知識はどこから来るものなのだろう。そう思った時にはすでに保健室の中は、私一人だった。
「貧血で倒れたことになっているんだから、大人しく寝ていろ」と言って出て行ってしまったからだ。
私はベッドの上で横になりながら、スマホを操作する。
【今日はありがとう】
とりあえず、今はこれだけ。さっき浮かんだ疑問はいつだって聞けるのだ。そう、これからはいつだって。