親愛なるあなたへ

 はじめまして。そして読んでくれてありがとう。

 わたしはいま、この手紙を星間連絡船の中で書いています。

 わたしから、ひとつ聞いてもいいかな……。

 もし、生まれ育った場所を離れなければならないとしたら、どう思う?

 それもね、帰ってくることはほとんどできない。そこにいることは許されない……とか、そんな条件でね。

 もうひとつ、生まれ育った星やコロニーを移らなければならないというようなスケールでね。

 いま、これを書いているわたしもそのうちの一人。

 知らないところに行くのは不安じゃないかって?

 もちろん、不安はいっぱい!

 それでもね、わたしの居られる場所や理由がなくなってきたな……って思っていたのも大きな理由のひとつだった。

 悩んだけれど、それより期待とか憧れのほうが大きいから、片道のきっぷを選んだよ。



 だって、これからわたしが新しい生活を始める場所は、『なにか』を持っていなければ受け入れてもらえないはずだから。

 そして、『そこ』はわたしを受け入れてくれると答えをくれた。

 初めて、誰かに自分を認めてもらえたような気がした。

 むしろ、「待っていたよ、早くおいで」と言ってくれているようで……。

 『なにか』が何なのかはまだ分からないけどね。

 一つだけの手荷物を持って、船に乗り込んだときに思った。

 ここに再び来ることはあるかも知れないけれど、そのときはお客さんでしかなくなってしまうのだと。




 そう言えば、数日前の夜に不思議な夢を見たっけ。

 準備もほとんど終わっていたわたしだったけれど、なかなか寝付けなかった夜。

 故郷を発つ引っ越しを前に緊張していたのだと思う。



 そんなとき、スクリーンでしか見たことがない真っ青な青空の下にいたわたしの前に、一人の女の人が現れた。

 見たことがある人じゃない。それなのに、どこか懐かしい気もする……。

 わたしに向かって、その人は言ってくれた。

「伝説の女の子が、奇跡の星に迎えられて、素敵な人達と出会って、これから新しい物語を創っていくのだから、心配しなくていいのよ」と。

 伝説の女の子……? わたしはそんな子じゃない。

 そう頭を横に振ったわたしのことを、その人はふんわりと抱きしめてくれた。

「あなたは一人じゃないから、絶対に大丈夫」

 そのまま腕の中で目をつぶって……、気がついたら朝が来ていた。

 でも、言ってもらったことははっきりと覚えていた。

 周りに夢の中の事を話しても信じてもらえないだろうから、黙っていたよ。



「あれは何だったのかな……?」

 今こうして、一人で船の部屋から見える星たちに問いかけても、もちろん答えは返ってこない。

 でもね、あの言葉の中で一つだけ当たっていることがある。

 今からわたしが向かう星は「奇跡の星」と呼ばれていること。

 そして、これまで多くの人たちが望んでも叶うことがなかった『そこ』に行くことをわたしが許されたこと。

 それなら、わたしが「伝説の女の子」なのかは別として、その先も当たっているのかもしれない。

 船の外に広がる、無限とも言える星たちに比べたら、わたしの存在なんて本当に砂ひと粒より小さい。

 でも、その星たちが見守ってくれているように、背中を押してくれているようにも思えた。


 これから素敵な人達と出会って、新しい物語を創っていく。

 これが本当ならいいな……。


 最初から後ろに戻ることは出来ないのだから、この言葉を信じて前に進むしかないよね。



 大丈夫。きっと。

 ゆっくりかもしれないけれど、新しい物語を書いていくから、見守っていてくださいね。

 わたし、頑張ってみるから……。


 (アルテミス)から地球(アクアリア)に向かう船の中で。

 西暦2350年 松木(まつき)渚珠(なみ) より