(ん……もう朝なのですね)

次の日、朝目覚めるとすぐに扉を控えめにノックする音が聞こえた。

「彩葉さま、起きていらっしゃいますか」

「茉央さん?起きてます」

そういうと茉央はゆっくりと入ってきた。

「おはようございます。湯浴みはされますか?」

「湯浴みは、そうですね……大丈夫です。」

「では、朝食の用意をしてきますね」

茉央がいなくなったのを確認すると、彩葉は控えめにため息をつく。

(本当に後宮に来てしまったのですね)

いつも、自分が朝食の用意をしたり、湯浴みの用意をしたりする側だったため、不思議な感覚だ。

(わたしなんかに、こんなのもったいない)

尽くしてもらう権利もないのに、彩葉は少しだけこの状況に甘えてしまっているのが事実だ。

服を着替えようと備え付けの棚を開くと、溢れんばかりに入った服に驚いてしまった。

(こ、こんなにもらってもよろしいのでしょうか……)

どれも自分に合う気がしない。

昔から春華にはどれも似合わないと言われ続けてきたからか、自信がみるみる萎んでいく。

「彩葉さま〜って!まだ、服を選んでないんですか?」

「ご、ごめんなさい。どれも似合わない気がして……」

頭を下げると慌てたように茉央は顔を歪めた。

「そ、そういうわけではなく!彩葉さまも、その……気位が高い方かと疑っていたために……」

「疑う?」

聞くと彼女は悲しそうに眉を下げる。

「わたしのもともとのご主人さまはとても良い方でした。」

「……?」
「ですが、後宮は女の園。気位が高い方など、たくさんいます。そのため、いじめや嫌がらせなど日常茶飯事です。そのために……」

すべてを察した彩葉は頷く。

「だから、私も気位が高いかと思ったんですね」

「......そうです。疑ってしまい、申し訳ありませんでした。」

「言ってくれてありがとうございました。つらい思いをしたのは茉央さんです。謝る必要はありません」

「彩葉さま......ありがとうございますっ」

泣きそうな表情でそう言ってくれる茉央は本当にいい子なのだろう。

「さ、これで話は終わりです。お腹が空きました。」

「あっ、そうですね!食べましょう!」

彩葉は茉央の用意してくれた朝食を食べ始めた。


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