翔吾が家に来た翌日の二時、鈴江と共に新千歳空港へ息子の家族を迎えに行った。昨年出来た空港の到着ロビーは、飛行機が到着する度に人で溢れた。物好きな奴らだと勇は思う。ジャンボジェット機のお陰で旅客運賃が安くなったと言われても、空を飛ぶ物になど乗りたくは無い。

「なにもこんな帰省ラッシュの真っ最中に帰省せんでも」
「商社の夏休みはお盆と決まっているんですから、仕方が無いでしょう」

 勇は人混みに辟易としていたが、鈴江はそわそわと身体を揺らして一刻でも早く人波の中に息子達を見付けようとしていた。無理も無い。息子の修に会うのは十七年ぶりだ。修は東京の大学に入る為家を出てから、殆ど帰省しなかった。最後に顔を見たのは、アメリカに転勤が決まった時だった。現地で二人の子供が産まれたと聞いているが、手紙も写真も送ってこない。この春東京の本社に帰ってきたが、挨拶は夏休みにと先延ばしにされていた。男とは斯くも素っ気ないものかと呆れる。娘が生きていたらと考えずにはいられない。

 勇が引き揚げ船に乗ったのは修が二歳の時だった。知人のいる小樽に住みしばらく林業の会社で働いていたが、ソ連兵の言葉を思い出しチェーンソーを輸入する会社を立ち上げた。日本で初めての試みは当たり、高度経済成長の波に乗って会社は大きく成長した。日本に帰ってすぐ女の子を授かったが、修にうつされた麻疹で命を落とした。

 東京発札幌行きの到着をアナウンスが告げた。程なくしてエスカレーターがぎっしりと人を乗せて下ってきた。殆どの者は手荷物カウンターへ直行したが、数名はそのまま出口に向かった。その中に二人の子供が交じっており、ドアを出てすぐに駆けて行った。すらりと手足の長い子供だと、後ろ姿を見送っていた。しばらくして、修が紺色のスーツケースを押し、妻の祥子と出口のドアをくぐって出てきた。鈴江は大きく手を振り、修に駆け寄る。中年と呼ぶ年齢になった修は、母親に笑顔を向けた。

「お母さん、久しぶり。元気だったかい」
 息子の言葉に鈴江はハンカチを目元に当てた。
「お義父さんお義母さん、ご無沙汰いたしておりました」
 幾分ふくよかになった祥子が頭を下げる。背後に「お母さん」と声変わり前の少年の声が聞こえた。祥子がそちらへ手を振る。
「手荷物を待つ時間が勿体ないって、二人で外に飛び出してしまったんです。あれが、孫の純平と可奈子です」
 祥子の視線の方へ、振り返る。鈴江が小さな声を上げた。勇も、思わず唾を飲み込んだ。

 純平は十三歳、可奈子は十歳。黒髪に、黒い瞳の少年と少女だ。しかし。

 白い肌に彫りの深い顔立ちは、明らかに異国の血が混じったものだった。