「暁さま、午前中に雛さんがこれを届けてくれました」

 参謀本部から帰ってきた暁を出迎えた深月は、彼の執務室で菓子折りを渡した。

 菓子折りの留め紐に挟まった紙には、丁寧な文字で「この度はご迷惑をおかけしました」と綴られていた。

 「わざわざこんなものを」

 「はい、それとまたお邪魔するともおっしゃっていましたよ」

 「嬉しそうだな」

 深月の顔をじっと見つめる暁は、つられたように微笑んだ。あまりにもこちらが甘く蕩けそうな表情に、深月は危機を感じてさっと視線をそらす。

 「あの、暁さまこそ、嬉しいそうですが」

 「君がそうか? ……君が、嬉しそうにしているからだと思う」

 自分なり考えて答えを出す暁だが、その生真面目た返答にさらに深月の心は乱されていた。

 ふたりともお互いの想いを伝えあってまだ日が浅い。正直朝起きて顔を合わせるのもどぎまぎして落ち着かなることもある深月に対し、暁は真逆だった。

 (……すごく、視線を感じる)

 まるで自分のなかにある気持ちを確かめるように、暁は深月を優しげに見つめる。

 これまで背けていた感情と向き合った結果なのだろうが、深月の身体は恋を自覚する前に戻ったように、胸に負担がかかってばかりだった。

 だが、職務中はしっかり冷静な顔で隊員らに指示を出しており、その変わり身の速さを思い出すと少し可笑しくて笑ってしまう。

 「深月」

 「はい」

 「つぎの非番に、街へ出かけないか。夏もすぐ来るだろうから、この組紐の染め糸を買った紺屋に行こうと思うんだが」

 暁は手首の組紐に触れ、深月はゆっくりとうなずく。

 契約の花嫁として、ではなく。

 恋のさらに先にある特別な関係。恋人として彼の隣を歩いて行ける幸せを、深月は大きく噛み締めた。