初日は深月と関わることを避けていた女中たちが、いまでは世間話も交えてくれるようになった。あくまで分家筋のお嬢さまという認識なので敬いは常に感じるけれど、それでも深月は嬉しかった。

 そんな矢先のこと。

 「――失礼。君が、白夜深月さんかい」

 別邸に戻り、建物の中に入ろうとしたところで、ふと呼び止められる。

 振り返ると、そこには軍服を身に包み、短く整えられた美髯が印象的な壮年の男性が立っていた。

 「あなたは……?」

 深月は軍人の階級に詳しいわけではないけれど、その他大勢とは違った格好といい、装飾といい、あきらかに偉い立場だというのがわかる。

 「どうもはじめまして、私は――」

 「参謀総長!」

 そのとき、少し声を荒げた暁が血相を変えて現れ、男を呼び止めた。

 「早かったな、暁」

 参謀総長と呼ばれたその男は、暁の名を親しげに呼び、口元に笑みを作った。

 男の正体が明かされ、深月は目を見開く。

 彼は、帝国軍参謀本部の長、最高指揮官にして最高権力者。

 朱凰公爵家当主、またの呼び名は、朱凰参謀総長。

 暁の養父だ。