「お嬢さま、こちらの野菜もお願いします」

 「はい、角切りですね」

 「お嬢さま、こちらの膳をお願いできますか」

 「はい、すぐに運びます」

 深月が本邸女中の手伝いを始めて数日、最初は冷やかしだの馬鹿にしているだの影で言われていたものの、女中たちが考えを改めるのは早かった。

 「おおかたの洗い物は済みましたので、お洗濯を干して来ますね」

 「え、もう洗い終わったんですか⁉」

 「はい。お皿の置き場所は問題ないでしょうか」

 「……か、完璧です」

 あまりの仕事ぶりに、女中が抱いていた深月の印象はすっかりひっくり返っていた。なによりも丁寧で正確、早いとなれば文句を入れる隙もない。五人の女中が抜けた穴をひとりでまかないつつある深月は、彼女たちにとって救いの手だった。

 洗濯を干し終え、深月の手には可愛らしいお饅頭があった。

 女中のひとりから「ちょっとは休憩してきてください!」と説得され、そのお供にと渡されたのである。

 (よかった。少しずつだけど、打ち解けてきて)