天高く伸びる森の木々に囲まれた白夜家本宅の屋敷。

 白く重厚感のある外観は華麗な装飾が施され、同じく西洋建築を模した特命部隊の本邸や別邸よりも、さらに繊細な設計がされているのは随所から窺えた。

 (窓も壁も、どうやって造られているのか想像がつかないわ)

 建築に関して知識のない深月でも、その意匠を凝らした屋敷の景観に固唾を呑んでしまうほど、独特な雰囲気があった。

 「どうぞお入りください」

 使いの男に案内を受けて中に入る。薄暗い広間と階段には渋みのある赤い絨毯が広く敷かれており、茶色の柱と階段の彫り装飾が芸術品のように思えた。

 「こちらの応接間で主がお待ちです」

 一階の廊下を進み、ひとつの扉の前で歩みを止めた男は、ふたりを中へと誘導する。

 「やあ、ふたりとも。待っていたよ!」

 入った瞬間、ふたりを出迎えたのは嬉しそうに腕を広げた乃蒼だった。

 白シャツの上から中着(チョッキ)のみと、いつもよりかなりの軽装である。外出時は日光を避けるための帽子も被っておらず、深月の目には新鮮に映った。

 「乃蒼さん、お招きいただきありがとうございます」

 「お礼を言うのは僕のほうさ。深月、暁くん、よく来てくれたね。君もご苦労さま」

 最後に乃蒼は案内役を務めた彼に労いの言葉をかける。

 「ここまでの案内してくださってありがとうございました」

 深月も振り返り礼を言った。暁は深月の言葉を立てて口は挟まず、代わりにしっかりと会釈をする。

 そんなふたりの丁寧な物腰に瞳を広げ、男はにこりと笑顔を浮かべた。

 「案内役光栄にございました」

 男は暁にも同じように目礼すると、応接間を出ていった。

 「彼は僕の側近だよ。表の事業と首領補佐。色々と世話になりっぱなしなんだよねー」

 「もしかしてですが、あの方は私のことをご存知で?」

 なんとなく去り際の台詞や態度に引っ掛かりを覚えていた深月は、おそるおそる聞いてみる。

 「うん、そうなんだ。深月が稀血だということも知ってる。事後報告になって悪いんだけど、それについても話をさせてほしくてね。こっちに座って。いまお菓子も用意させているから」

 深月と暁は互いの顔を見合わせ、とりあえず詳しいことを聞くために、乃蒼が示したソファに並んで腰を下ろした。