日出ずる国。華やかな街並み、文化、思想が交差する帝都。
この広大な都は遥か以前から、〝人間〟と〝人ならざるもの〟によって歪に形成されていた。
もとをたどると数百年前、至るところにはびこっていた異形の種族〝あやかし〟が事のはじまりである。
ときには人の姿に化け、ときにはおぞましい異型となり、あやかしは人の血肉を求めて多くの命を食い散らした。
だが、討伐隊の目覚ましい躍進によって勢力を追い込むことに成功する。
次第にあやかしは『妖界』という、この世とは切り離された場所に移り住むようになった。
しかし、ある一族だけは人の世に残り子孫繁栄を繰り返した。
一族の名は、『禾月』。
姿かたち、知力は人と大差がなく、老若男女と見た目もさまざま。人間の血液を糧とし、体内に吸収することで生を維持している。
知恵を働かせて人の世にうまく溶け込み、社会的身分を得ている者も少なくない。
その代表格とも言えるのが禾月の始祖家系、現首領の家門『白夜』である。
白夜家は多くの禾月を束ねる血筋であり、幅広い貿易を担う豪商として人の世では名を馳せていた。
一方、あやかしの類いでも禾月とは異なるのが、『悪鬼』だ。
それは災害や動乱などの原因により、人の世と妖界との間に道が生じてしまった際、まぎれ込むとされていた。
悪鬼は肉体がなく、知能も極めて低い。禾月とは比べ物にならないほど脆弱だが、実体を求めて生き物に取り憑く。
さらに力を得るため、本能に従って生き物を襲うことも多くあった。
そんな人ならざるものに日々密かに立ち向かうのが、討伐隊の後身、帝国軍直轄の特命部隊である。あやかし関連が大衆には秘匿とされる中、人知れず都の秩序を裏から支える精鋭揃いの集団だ。
中でも隊を束ねる隊長、朱凰暁は軍きっての若き実力者。
鬼を宿した刀を無感情なままに冷然と振り、暴走した禾月や悪鬼を確実に仕留める姿から、禾月のあいだでつけられた異名は『鬼使い』。その存在自体が帝都に潜む人ならざるものたちへの抑止力となっている。
また、軍人とは思えぬ人並み外れた美しい面差しが相まって、帝都民からの世評も高く一目置かれる人物だ。
禾月と悪鬼。
どちらも昔から帝都にあり続けているが、やはり警戒すべきは、より狡猾な禾月である。
さらに厄介なのは、白夜家の支配下にいない、いわゆる野良の禾月。
白夜家のように人間との均衡を保つべく働きかける思想がある一方で、彼らは調和を乱し、その均衡を脅かそうとする。覇権を握るべく策動する影は、日増しに色濃くなっていた。
そんな混沌渦巻く種族の狭間に、ある少女が現れる。
名は、深月。
母方の姓は、白夜。
人間と禾月の血を受け継ぐ身の上だが、そうとは知らずに生きてきた。
『稀血』という本来生きることは不可能とされる特別な存在である彼女は、鬼の軍人のそばにいることを選んだ。
けれどまだ、彼を想う感情の名を、心の底から自覚し言葉にはできていない。
同じようにそばにいることを望んだ、彼もまた。
この広大な都は遥か以前から、〝人間〟と〝人ならざるもの〟によって歪に形成されていた。
もとをたどると数百年前、至るところにはびこっていた異形の種族〝あやかし〟が事のはじまりである。
ときには人の姿に化け、ときにはおぞましい異型となり、あやかしは人の血肉を求めて多くの命を食い散らした。
だが、討伐隊の目覚ましい躍進によって勢力を追い込むことに成功する。
次第にあやかしは『妖界』という、この世とは切り離された場所に移り住むようになった。
しかし、ある一族だけは人の世に残り子孫繁栄を繰り返した。
一族の名は、『禾月』。
姿かたち、知力は人と大差がなく、老若男女と見た目もさまざま。人間の血液を糧とし、体内に吸収することで生を維持している。
知恵を働かせて人の世にうまく溶け込み、社会的身分を得ている者も少なくない。
その代表格とも言えるのが禾月の始祖家系、現首領の家門『白夜』である。
白夜家は多くの禾月を束ねる血筋であり、幅広い貿易を担う豪商として人の世では名を馳せていた。
一方、あやかしの類いでも禾月とは異なるのが、『悪鬼』だ。
それは災害や動乱などの原因により、人の世と妖界との間に道が生じてしまった際、まぎれ込むとされていた。
悪鬼は肉体がなく、知能も極めて低い。禾月とは比べ物にならないほど脆弱だが、実体を求めて生き物に取り憑く。
さらに力を得るため、本能に従って生き物を襲うことも多くあった。
そんな人ならざるものに日々密かに立ち向かうのが、討伐隊の後身、帝国軍直轄の特命部隊である。あやかし関連が大衆には秘匿とされる中、人知れず都の秩序を裏から支える精鋭揃いの集団だ。
中でも隊を束ねる隊長、朱凰暁は軍きっての若き実力者。
鬼を宿した刀を無感情なままに冷然と振り、暴走した禾月や悪鬼を確実に仕留める姿から、禾月のあいだでつけられた異名は『鬼使い』。その存在自体が帝都に潜む人ならざるものたちへの抑止力となっている。
また、軍人とは思えぬ人並み外れた美しい面差しが相まって、帝都民からの世評も高く一目置かれる人物だ。
禾月と悪鬼。
どちらも昔から帝都にあり続けているが、やはり警戒すべきは、より狡猾な禾月である。
さらに厄介なのは、白夜家の支配下にいない、いわゆる野良の禾月。
白夜家のように人間との均衡を保つべく働きかける思想がある一方で、彼らは調和を乱し、その均衡を脅かそうとする。覇権を握るべく策動する影は、日増しに色濃くなっていた。
そんな混沌渦巻く種族の狭間に、ある少女が現れる。
名は、深月。
母方の姓は、白夜。
人間と禾月の血を受け継ぐ身の上だが、そうとは知らずに生きてきた。
『稀血』という本来生きることは不可能とされる特別な存在である彼女は、鬼の軍人のそばにいることを選んだ。
けれどまだ、彼を想う感情の名を、心の底から自覚し言葉にはできていない。
同じようにそばにいることを望んだ、彼もまた。