その週末、時間通りにいつもの待ち合わせ場所で結芽を待っていたが、待てども待てども結芽は来なかった。
メッセージも送ってみたのだけど、既読もつかず、電話はしようと思ったところで井上さんの顔が突然チラついてしまいかけなかった。
自分の保身ばかりには走る自分が情けなくなった。
結芽は約束を破る人じゃないし、現に今までそんなことは一度もなかった。
今回は多分、連絡をすることができないくらい緊急な自体なのかもしれない。と勝手に結論づけてその日は結局一人で過ごした。
久しぶりに一人で過ごす町は二ヶ月となんら変わらないはずなのに少し虚しい感じがした。
隣にたった一人、人が居ないと言うだけなのに。
結芽と連絡がついたのは翌日の早朝だった。
どうやらその日は父が急に仕事が休みになり家に帰っていたから外に出られなかったのだそう。
父がいる時はスマホもいじることが禁止されているからメッセージも見れなかったと謝罪のメッセージが届いた。
「気にしてないよ」とだけ返信し、家を出た。
姉さんはもうしばらく家にいるみたいで朝は朝食を用意してくれ僕の見送りまでしてくれた。
今日は母さんは僕になんて言ってくるだろう。
その考えばかりが頭の中を駆け巡り、「いってらっしゃい」という姉さんの言葉に僕はすぐには反応することができなかった。
学校についてからも井上さんの顔ばかりがチラついて手を振ってくれている結芽を僕は避けることしかできなかった。
この時点で僕の心のどこかにヒビが入っているのがわかった。
週末に色んなことがありすぎたからか、僕の心は既に音を上げはじめていた。
「中原、すまないが今日もこれを頼むよ」
すまないと思うなら自分でやってくれ。
「分かりました」
普段通り本音を笑顔の裏に隠すが、いつもよりそんな心の声が大きな音で頭の中を流れているような気がしてならなかった。
気を紛らわすために楽しいことを考えようともした。
週末になればまた、結芽と一緒に町へ出かけれる。
週末まで耐え切れば。
「生かすも殺すも私次第ってことよ」
そんな考えも井上さんの言葉によってかき消された。
僕は一体どうすればいいんだ。
僕の居場所はいったい……。

それからは帰路に着く足も学校へ行く足も、重りをつけられたように重かった。
最近寝れてもいなかったし、家にも学校にも居場所がなかった。
結芽からは心配のメッセージが来ていたけれど僕は「大丈夫」と返すことしかできなかった。
幸い、(わたし)のメイク術が効いて隈や顔色を結芽以外に言及されることは無かった。

週末になり、私たちははまたいつものように集まる約束をした。
今回は私の方に姉さんがいるからいつもより早めの時間に集合することとなった。
「おはよう。今日はちゃんと寝れたの?」
「心配しなくてもいつもぐっすりだよ」
「嘘つき。目の下のメイクがいつもより濃いの気づいてるからね」
今日も私のメイクは完璧だったと思ったのだが、実は平日に姉さんにも同じことを言われていたので見破られたのがこれで二人目となると少し不安になる。
やはり姉さんと結芽は似ているとますます思えてくる。
姉さんの方は僕の顔をみて心配していけれど、ただ「自分を大切にして」とだけ言って深くは追求してこなかった。
他の人から見たらクールやドライなんて言葉で片付けられてしまいそうだけど、昔からこのような姉さんの奥底が見えない感じがなんだか少し怖かった。
「今日は先週行けなかった分まで楽しむから!行くよ翼!」
「ちょっと!」
結芽は私の手を掴み道の真ん中を駆けていく。
今はそんなことを考えている場合ではないか。
今は今を楽しまないと損だし、このままだと結芽に置いてかれてしまう。
私も足の回転を早めて二人隣を並んで町を進んで行った。
今日の行き先は決めず、ただ色んなところに行ってみようと結芽の提案で今日はバスに乗り隣町に来た。
バスを降りてからは観光地になっている場所とその付近をぐるぐると周り、オシャレなかき氷を食べたり、お土産屋さんに寄ってみたり、外国人観光客向けに和風に仕上げられ、日陰にあるベンチで談笑してみたり。
一週間会えなかった分を私たちは存分に楽しんだ。
観光が一通り終わると私たちは昼食のために観光地の離れにあるカフェで軽食を取る事にした。
既に食べ歩きをした後だったから今の私たちにはカフェのフードメニューくらいの量が丁度良かったのだ。
私はハムカツサンドを、結芽は卵サンドを注文してゆっくり話をしながら食べた。
寝不足で鉛のように重かった体も結芽といる時は気にならなかった。
ただ、本当の波乱は昼食を食べ終えた私たちに、ほぼ同時に襲いかかってきた。