翌朝。登校時間になっても、相も変わらず三石は起きない。仕方なくフローリングの線を踏み越え、身体を揺すって声をかけるが、起きない。
「三石ー。そろそろ起きないと遅刻するぞ」
「……ぐー……」
三石はいびきで応える。
「……おい」
無理やりふとんを剥がそうとするが、三石は無意識なのか、ふとんを強く握って僕を拒む。
「……はぁ」
大きなため息が漏れる。
「ねぇ三石、学校行かないの?」
「ん〜……」
「早く起きて、用意しないと遅刻しするってば!」
ぐいっと強く引っ張った瞬間、靴下が滑った。
「うわっ!」
勢いよく尻もちをつく。
「って……」
腰を押さえながら三石を見るが、変わらず僕に背中を向けて寝ている。僕が転んだことくらい、音で分かるだろうに。
「……はぁ……」
ため息をついてから、またついてしまった、と思う。
……なにをやってるんだろう、僕。
三石の背中を見て、急に我に返る。
……もういいや。こんな奴、どうでも。
三石が遅刻して困るのはあくまで三石で、僕は痛くも痒くもないのだから。
僕はベッドでぐーすかいびきをかく三石を放って、ひとり学校へ向かった。
三石と同部屋になってから朝の自習は最近寮でやる習慣になっていたが、今日は三石のお守りをしなくて済むから、少し早く学校に着きそうだ。これなら軽い予習くらいはできるだろう。
教室につき、黒板の上にある時計を見る。思ったとおり、いつもより十分早く着いた。
「よし」
教科書を開いてシャーペンを持つ。
「…………」
脳裏にちらりと三石の顔がチラつく。
……べつに、気にする必要はない。起きないあいつが悪いのだから。僕は十分やっている……はずだ。
雑念を振り払って、ペンを持ち直した。
ほどなくして、石田や圭司、それから女子たちが登校してきた。
圭司は相変わらず僕にプリントを見せてと頼んでくるし、女子たちは兄貴の話を振ってくる。
日常だったはずなのに、ずいぶん久しぶりな感じがする朝。僕の日常は、すっかり三石中心に変わってしまっていたらしい。
「そういえば今日、三石は?」
圭司と話していた石田が僕を見る。
「あぁ、起きなかったから置いてきた」
……そろそろ起きただろうか。今頃、寮を出ていなきゃ、ホームルームには間に合わない。
「またかよ。仕方のない奴だな」
「とうとういいんちょーにも見放されたかぁ」
「えっ、いや……」
そんなつもりはない。……いや、少しはあるけれど。でもべつに、引きずるつもりはなかった。
「まあ気持ちは分かるよ。あいつ空気読めないもんな」
「――え?」
その言いかたに引っかかって、顔を上げる。
「悪い奴じゃないんだけどな。ちょっと、自由過ぎっつーか」
石田は苦笑し、圭司もどこか意地の悪い笑みを浮かべていた。
「ずっといっしょにいたら疲れそうだよな」
「だよな。あいつと同部屋とか、俺にはぜったいムリだわ」
いきなり始まった三石の悪口大会に、僕は軽い衝撃を受ける。
だって、圭司は特に三石と仲がいい。数日前だって、三石と楽しそうにゲーセンに遊びに行っていたのだ。
「つーかあいつ、寮ではちゃんと勉強してんの?」
「いや……ぜんぜん」
「やば。じゃあなんであんなテストの点数良いわけ? 謎なんだけど」
「カンニングじゃね? あいつならやりそーじゃん」
たしかに三石はわがままだし、ぜんぜん勉強なんてしない。だけど、あいつが利口だということは、話していれば分かるはずだ。
……それに、三石は。
部屋で圭司や石田の話もよくしているけれど、あいつの口からふたりの悪口なんて、一回も聞いたことがない。三石は、目の前にいる人間に不満や文句を言うことはあっても、その場にいない人間の悪口を言うことはまずないのだ。
それなのに……。
「つーかあいつ、この前さ……」
ペンを持つ手に力がこもる。
頭上で繰り広げられ続けるルームメイトの悪口に、苛立ちが募っていく。
べつに、僕には関係のない話だ。気にすることはない。だけど……だけど。
「……あいつは、カンニングなんてしない」
「え?」
「三石は、そういう卑怯なことをするやつじゃないよ」
むしゃくしゃして、髪を掻き回したい気分だ。近頃、三石が絡むと、どうもじぶんの心がよく分からなくなる。
じぶんでもよく分からない感情を持て余しながら顔を上げたとき、石田と圭司の顔が目に入って、僕はようやく我に返った。
空気が凍りついていた。ふたりのしらけた視線に、僕はあおざめる。
「あ……いや……」
たまらず俯く。
ヤバい。この空気をなんとかしないと。
僕はわざと笑って、ふざけた調子で言う。
「っつーか、あいつにそんな賢い考えあるわけないじゃん! ばかだもん」
張り詰めた空気のなかでは、僕の声はやけに大きく響いたように思えた。
「……だな」
「ははっ! やっぱ委員長も三石のことばかだと思ってんじゃん!」
「ま、まぁな」
「ひでー」
一瞬張り詰めたと思った空気が、パッと弾けたように瓦解してホッと胸を撫で下ろす。しかし同時に、ちくちくと、小さな針で心臓を直接つつかれているような、わずかな痛みを感じた。
続々と登校してくるクラスメイトを眺めながら、小さくため息をつく。
石田と圭司は既に話題を変えている。どうか話が蒸し返されませんようにと祈り続けながら、それにしても僕はなんでさっき、三石を庇ったんだろうと考えた。
悪口なんて、毎日どこかで囁かれる。僕だって囁かれる。
ムキになるだけ無駄なのだから、べつに放っておけばよかったのだ。
……でも、なんか。さっきの圭司の発言はちょっと、いやだった。
僕より仲がいいくせに、いつも楽しそうに笑い合ってるくせに、なんならあいつのいちばんなくせに、お前が悪口を言うのか。
それに、本人がいない場でそういう話をするのも気に食わない。言いたいことがあるなら、本人に直接言えばいい。三石みたいに。
ふと我に返る。
……これじゃまるで、石田や圭司に嫉妬してるみたいだ。
そこまで考えたとき、始業二十分前の予鈴が鳴った。
ハッとして、窓際の座席を見る。
三石が来ない。
スマホを開いてメッセージを見てみるけれど、既読すらついていない。
これは、寝てるな……。
予鈴が鳴っても変わらず窓際で騒ぐ圭司たちと、教卓の前でアイドルの話をする女子たち。それから、さらにやってくるクラスメイトたち。
どうせもう、騒がしくて勉強などしたところで集中できないだろう。
「……仕方ない」
僕は重い腰を上げる。
僕は机に広げた教科書をそのままに、寮へ向かった。
始業開始時刻は午前八時半。今は八時十二分。ダッシュで往復したとして、ギリギリだ。
寮に着き、駆け込むようにして部屋に入る。
ベッドを見ると、案の定、三石はまだ寝ていた。呆れて脱力しながらも、説教している暇はない。急いで三石を起こしにかかる。
「おい、三石! 起きろ」
肩を揺すり、乱暴に腕を引いて上体を起こさせた。
――が。一度起き上がった三石は、そのままゆっくりと僕のほうに倒れ込んできた。
「おい、三石。ふざけてないで……」
咄嗟に三石の身体を抱き留めるが、すぐに異変に気付いた。
熱い。三石の身体が。
ふざけて抱きついてきたとか、そういうわけではない。状況を悟り、僕は三石の顔を覗き込む。
「おい、三石?」
長い前髪の隙間から見えるその顔は、ほんのり赤面していた。
「みつ……」
眉を寄せ、苦しげな呼吸を繰り返している。額に手を持っていって確信する。
三石は発熱していた。
どうしよう。こういうとき、ふつうならどうする? 救急車を呼ぶ? それよりまず学校に連絡? いや、でも、ただの熱なら寝かせておけばいいのか? とりあえず、身体を冷やすべきだろうか?
僕は生まれてこのかた、看病をされたことはあっても、したことはない。焦りと恐怖で心臓が暴れ出す。
「……落ち着けよ。ただの熱だから」
ひとりベッドのかたわらでパニックになっていると、察したらしい三石が言った。ハッとして三石を見る。
三石は、うっすらと目を開けてこちらを見ていた。意識はあったらしい。
「おい、大丈夫か?」
慌ててベッドに駆け寄る。
「大袈裟だな。……あのさ、とりあえず俺、今日は学校休むから。柚月はもう行けよ」
「……でも、ひとりで大丈夫なのか? 病院とか行ったほうが……」
明らかに声に覇気がないし、呼吸も浅い。
「大丈夫だって。薬ならあるし。……あぁでも、先生にだけ言っといて。今日は休むって」
「……それはいいけど……」
「さんきゅ」
「あの、なんかしてほしいこととか……」
「べつにねーよ。ほら、早く行かないと遅刻するぞ、優等生」
「でも……」
大丈夫だろうか。まぁ、本人がこう言っているのだから、大丈夫なのだろうが……。
「わ、分かった。じゃあ、なんかあったら連絡しろよ」
「ん」
とりあえず濡らしたタオルを額に乗せてやり、ベッド脇に椅子を移動させて、そこに市販の風邪薬と水を置く。
「至れり尽くせりだな。ツンデレかよ」
茶化すように三石が笑う。だけど、その笑顔はやっぱりいつもより元気がない気がする。
やっぱり心配だ。このままひとりにして大丈夫だろうか。
黙り込んだままでいると、再び三石の笑い声が聞こえた。
「なんだよ、その顔。もしかして俺のことそんなに心配なの?」
ひとが本気で心配してるっていうのに、こいつ。
「……そんなんじゃないし。とにかく、今日は大人しくしてるんだぞ。食欲があるならちゃんとなにか食べること。ただし、梅干しはポテチ感覚で食べ過ぎんなよ」
「うい〜」
本当に大丈夫だろうか。心配になりながらも、僕は立ち上がる。
「……じゃあ」
僕はそろそろ学校に行くな。そう言おうとしたとき、パッと手を取られた。振り向くと、三石が僕の袖を掴んで引き止めていた。
「……どうした?」
なるべく優しい声で訊ねると、三石はどこか困ったような、泣きそうな顔で僕を見たまま、ただ唇を引き結んでいた。
「なんか食べたいもんでもある?」
三石がぶんぶんと首を横に振る。
「……じゃあ、なに?」
どうしたらいいか分かんなくて、僕は三石をじっと見つめる。けれど結局、三石は首を横に振って、僕から手を離した。
「んーん。やっぱなんでもない」
「え……いや、なんでもないってことはないだろ」
「うん。でも、ほんとになんでもないよ」
「……そう? じゃあ、学校行くな?」
「ん。……いってらっしゃい」
後ろ髪を引かれながらも、僕はベッドで丸くなる三石を残し、学校に戻った。
出席確認の際、三石は発熱のため休みだと伝えると、雨谷先生はあっさり「風邪か。りょーかい」と言って次の生徒の名前を呼んだ。
その反応を見て、僕の心はいくらか落ち着いた。
三石はただの風邪だ。きっと昨日、雨に打たれたから、それで身体が冷えて熱が出たのだ。
考えてみれば、原因もはっきりしているし、そこまで慌てることでもなかった。
まったく、ばかは風邪を引かないというのに。つくづくひと騒がせなやつだ。
僕はようやく息を吐いて、机に出したままになっていた教科書を閉じるのだった。
放課後、コンビニに立ち寄ってから寮の部屋に戻ると、三石はなんと、ベッドの上でお菓子を食べながら、漫画を読んでいた。
「おっ! おかえりー」
驚くほどに軽い挨拶が飛んできて、僕は扉を閉める力もない。
「……お前、熱は?」
「下がったよ! だから言ったろ? 大丈夫だって。さすが、俺の風邪菌は撤退が早いのよ。朝は悪かったね」
「……いつから?」
なるべく感情を抑えて、訊ねる。三石は呑気に空を仰いだ。
「んー、昼前くらいにはもう元気になってたかな?」
「……なら、午後の授業は出れたよな?」
我慢できず、握った拳が震え出した。
「えっ、そういうもんなの? 俺、朝行かなかったら学校って休むもんだと思ってたんだけど」
まぁ、出ないのはかまわない。
けれど、
「熱が下がったなら連絡くらいしろよ!」
思わず声を荒らげた僕に、さすがの三石も面食らったようだった。
「……わ、悪い」
三石は怒られた子犬のように小さくなった。いつもどおりの三石の様子に、僕はどんどん全身の力が抜けていくのを実感する。
「……ったく……はぁ〜……まぁ、元気ならいいんだけどさぁ」
大きなため息をこぼす僕を、三石は申し訳なさそうに見つめた。
「もう、心配して損した……」
……なんだよ。元気なのかよ。
三石を見てみれば、顔の赤みもなくなり、すっかり通常運転のようだ。
よかったけど、なんか、それはそれでムカつく。
「おっ、これなに? もしかしてお見舞い!? 俺に買ってきてくれたの?」
ふと、三石が僕が右手に持っていたビニール袋に目を止める。病み上がりのくせに目ざといな。
「……違うし。僕が食べたくて買ったんだ……って、あっ、お前!」
なんとなくムカついて、僕は袋を背中に隠す。が、三石はベッドからひょいと降りると、僕のうしろに回って袋を奪い取った。こういうときだけ素早い。
「わぁ! プリン、ゼリー、カットフルーツ! えーなに、アイスまであんじゃん……!! めっちゃ美味そう! あとはあとは……冷え……ピタ?」
袋の中身を漁っていた三石が、小さな箱を取り出す。それは、僕が三石用に買った冷却シートだった。
慌てて三石の手から取り上げるが、とき既に遅し。三石は、にまにましながら僕を見ていた。
「うっ……うるせーな!」
「なにも言ってないよ!?」
「顔がうるさいんだよ!」
「ひでぇ!!」
舌打ちをして、息を吐くついでに小さく呟く。
「……熱があるとつらいと思ったから、おでこ冷やしてやろうと思ったんだよ」
そう言うと、三石は一瞬きょとんとして、それからぷっと吹き出した。
「ははっ! なんだよ! やっぱりこれ、俺に買ってきてくれたんじゃん!」
「……あぁもう、そうだよ! 悪かったな!!」
ふん、とそっぽを向く。こんなことなら買わなきゃ良かった。なんであっさり熱下がってんだよ。よかったけども。
「なぁ! これ、付けていい?」
三石が笑いかけてくる。無邪気な笑顔は、いつもどおりだ。
「は? 熱下がったんだからダメに決まってんだろ」
「えー俺、これ使ったことないからおでこに貼ってみたい!」
「子どもみたいなこと言うな。ほら、代わりにアイスやるから」
「おっ! やった! どれにしよーかな」
子どものようにガサゴソと袋を漁る三石を見て、すっかり肩の力が抜けていく。
……でも、まぁ、元気ならいいか。
「決めたっ! 俺、これにする! 柚月はどれがいー?」
「……え、いや、僕はいいよ」
もともと、三石のために買ってきたものだ。遠慮すると、三石がムッとした顔をした。
「なんでだよ! どうせならいっしょに食べよーぜ」
三石に押され、僕はそろそろと袋の中身を見る。
「……じゃあ、僕はこれかな」
「抹茶だ! それ美味いの?」
「うん。僕これ好き。ひとくち食べる?」
「食べる〜!!」
なんだろう。
これまで、わがままで勝手な三石といっしょになんていたくないと思っていたけれど。
今日、圭司たちと話してはっきりと自覚した。
あいつらと話しているより、三石と話しているときのほうが、ずっと楽しいことに。
***
七月に入り二度目のテスト期間が明けて、一週間が立った。返ってきた答案用紙を見て、僕は愕然とする。
テスト科目のうち、四科目の点数が前回より落ちている。
物理、化学、数学II。得意だったはずの英語まで……。
なんで? あんなに勉強したのに。
科目ごとの順位を見るが、一位がひとつもない。すべて二位。数学にいたっては、三位だった。
血の気が引いていくのが、じぶんでも分かった。
「…………」
成績が、落ちている。明らかに。
試験範囲はそんなに広くなかったのに……。
これじゃ、このままじゃ、三年間学年一位はキープできない。
特待生は、学年順位十位以内に入っていないと特待生制度を受けられない。成績が落ちてしまえば、その資格は剥奪される。学費免除にもならない。
「うおっ! お前すげぇな! 数学一問しか間違ってねーじゃん! え、なに。もしかして、首席入学の特待生ってお前だったの?」
となりから、三石が僕の答案用紙を覗きながら話しかけてくる。周囲もなにかと騒がしいが、ぜんぜん耳に入ってこない。反応していられない。
そんなことよりも、目の前の数字の羅列が信じられなかった。
「最悪だ……」
何位? 二位? いや、二位も危うい。三位か、若しくは四位? 五位だったらどうしよう。
中間考査での一位からいきなり五位になるなんて。でも、この成績じゃ有り得ることだ。
確実に順位が下がったことを悟り、軽くパニックになる。
どうして?
原因は?
……原因なんてそんなもの、考えなくても分かった。
成績が落ちた理由は、明白。三石に時間をかけ過ぎているのだ。
「藤峰、順位表渡すの忘れた。ごめん、取りに来て」
「あ、はい」
雨谷先生の声に慌てて椅子を引く。教卓に立つ雨谷先生のところへ行くと、雨谷先生は僕の順位表を見てうーんと唸った。
「藤峰は、今回ちょっと成績下がったかな? でもまぁ、じゅうぶんだろ。お疲れ。次は頑張れよ」
「はい……」
順位表を受け取って、絶望する。
――三位。
やっぱり下がっていた。入学時は一位。中間考査も変わらず一位だった。それなのに。
雨谷先生の言うとおり、特待生順位はなんとか圏内ではあったものの。
でも、これじゃまずい。
雨谷先生は『頑張れ』と言った。
頑張ったのに。
まだ足りない?
僕はもっと頑張らなきゃいけないんだ。
もっとって、どれくらい?
分からない。分からないけど、とにかくもっと頑張らなくちゃいけないんだ。
「……頑張れ、僕」
震える声で呟き、じぶんに言い聞かせる。
頑張るって、つらいな……。
挫けそうになって、慌てて頬を叩く。ぱちん、と小気味良い音がした。
こんなことくらいでぐらついちゃダメだ。僕はダントツじゃないとダメなのだ。
僕は特待生。優等生。委員長。
先生に心配なんてされていたら、特待生失格。
みんなに頼ってもらうためにも、もっと不動でいなければならないのに。
「次、三石」
「ほーい」
三石が雨谷先生から順位表を受け取る。雨谷先生は順位表と三石を見比べながら、苦笑混じりに言った。
「……お前はいったいいつ勉強してるんだ? まぁ、テストの結果は良しとして、お前は生活態度の改善が目標だな。あんまり藤峰に迷惑かけるんじゃないぞ?」
うーい、となんとも気だるげな返事をしながら、三石は雨谷先生から順位表を受け取る。
「おっ! やった! 順位上がってるじゃん!」
先生は三石の答案を見て、満足そうにしている。
どくん、と心臓がいやな音を立てる。
自席へと戻っていく三石から、視線を外せない。
なんだよ……。三石の順位はそんなによかったのか?
もし、三石に順位が抜かされていたらどうしよう。
雨谷先生は僕の成績を信用して三石を預けてくれたのに。
ぜんぜん笑えない。
それに、この結果は親にもメールで届く。もし、親から順位が下がってしまったことを指摘されたら、なんと答えよう?
三石のことで忙しかったとか、集中して勉強する環境がなかったとか、そんなことは理由にならない。
なにを言っても、言い訳になってしまう。
このままじゃダメだ。
みんなに心配をかける。みんなに迷惑をかける。
できの悪い息子だと思われる。
心配されないように、幻滅されないように、もっと頑張らないと。もっと、勉強しないと。
たとえ、寝る時間を削ってでも。