「脳腫瘍です。余命1年だと思ってください」

「愛、が脳腫瘍?そんな!愛はまだ16何ですよ!?ど、どうか先生、私の命はどうなっても構いません!愛の命だけは!」


いつもは大人しい母が取り乱していたあの日の宣告。もう、何度この夢をみただろうか。



「難しいことを言います。愛ちゃんの腫瘍は、とても大きく、抗がん剤を投与しても意味はあまりないと思います」


悲しみを私はこの時味わった。


「あぁぁぁぁぁぁっ!まなが、まなが死んでしまうんだなんて!いゃぁぁぁぁ!」


お母さんは、室内にとても響き渡る声で泣き叫んでいた。





私の身体に症状が出始めたのは、冬頃だった。


今までで1番辛い激痛が起きた。


丁度、受験シーズンだったからだというのと、寝不足だったので自然に治るだろう、と思って野放しにしていた。



でも、頭痛はどんどん酷くなっていった。さらには、吐き気を催し、実際にトイレで吐いた。これは、普通じゃないと思った。でも、お母さんには到底言えなかった。お母さんは、昔大病を患ったそうだ。そのせいで、時々今も情緒不安定になる。そんな姿のお母さんを刺激したくなかった。



そして、体調が万全ではない試験本番。



試験は、順調に終わった。




さぁて、帰ろうと席を立った頃、目の前が歪んだ。突然のことに驚いて、気がついたら意識が途切れていた。





気がついくと、病院にいた。隣には、心配してくれて、手を繋いでくれていたお母さんの姿があった。私が目を覚ましたことに気がつくと、ポロポロと泣き出した。


「ちょっと、待っててね」そう言って、ナースコールを押した。



少し経った頃、お医者さんと看護師さんがやって来た。



「体調は、どう?」



「大丈夫です」


「そう。ねぇ、愛ちゃん」


神妙な顔をするお医者さん。



「これまでに、頭が痛いとか吐き気がするとかの自覚症状はあった?」



終始、私は返答に困った。近くに、お母さんがいたからだ。



「愛。ちゃんと、本当の事を言ってね」

「分かった。先生」


「何だい?」



「これまでに、頭痛と吐き気などの症状は、ありました」



先生は、やっぱりという顔を浮かべた。お母さんの方を見ると、今にも泣き出しそうだった。



「検査を、しましょう」



そう言って、お医者さんは出ていった。代わりに隣にいた看護師さんが車椅子を持ってきた。



「乗って、愛ちゃん。あ、名前名乗るの忘れていたね。私は、水野春(みずのはる)。よろしくね、愛ちゃん。敬語もいらないから、気軽にね」


そういう水野さんは、フレンドリーで優しそうだった。



「うん!よろしく!」




「じゃ、検査しに行こっか」



そう言って、検査室に連れて行かれた。




検査が終わったときには、ぐったり。人生で1番疲れた気がするよ〜。




検査の結果は、明日ということで検査入院をした。



泊まる、というお母さんを説得して帰すは、大変だった。でも、お母さんなりに心配してくれているのはものすごく伝わった。だから、ありがとうと礼を言って帰した。



夜は、不安でしかったがなかったのを今でも覚えている。



気がついたら、目が覚めていた。病室、だった。



「まな?」

恐る恐るという感じのお母さん。


「お母、さん」


「良かった!」


そう言ってお母さんは、抱きしめた。




「「愛ちゃん」」


起き上がると、先生と水野さんがいた。




「先生!それに、水野さんも!」


「愛ちゃん。深刻な話がある。もし、このままだと入院になるからね」


「え、どうして?」


先生の言葉に絶望した。


「愛ちゃんの腫瘍が少しずつ大きくなりつつあるんだ。これ以上悪化したら入院っていうことを頭に刻み込んでほしい。分かった?」


もう、私には頷くことしかできなくて静かに「はい」と頷いた。


こうして、私は退院した。