「……良かった。家にいてぇ。ごめんねななこ……ごめんねぇ」

 初めて見るお母さんの泣き顔。大人が泣く場面なんて見たこともないのに、それがまして自分のお母さんなら尚更だ。
 どうして泣いてるかもわからないが、戸惑いが隠せない。

「……」

 私をギュウッと強く抱き締める手がとても冷たい。それどころか、抱き締めるお母さんの身体は冷えきってまるで氷のよう。

「……冷たい」
「ずっと探してたのよ。本当に本当に探したんだから」
「……友達の……家に。帰りはそのお母さんに送ってもらって」

 友達……と呼んでいいのか分からないが、かとま君の存在を上手く伝える自信もない。
 優しくて純粋なかとま君の事を話した所で立場上私の一つ上の男の子なんて、如何わしい関係なんて誤解されたくない。

「そう……。とにかく無事で良かった。勝手に開けちゃったけど……ななこの机の引き出しに入っていたあの手紙を読んでお母さん気付いたの。ななこ、嫌な事されてたのね。気付いてあげられなくてごめんね、ごめんなさい……」

 また涙を流すお母さん。
 特に隠してもいない机の引き出しに入ってある、クラスメイトからの悪口が書かれた手紙、キモいと書かれた教科書。
 証拠として取っておいた品物は、どうやら役に立ったらしい。
 と言っても、今まで不登校になった理由を聞かれたことも言ってないことも原因だったのかなと思う。

「お母さん、絶対ななこを守るから。今日電話をかけてきたあの担任も何なのよ。何が問題ありませんよ?担任と虐めてきたクラスメイトも、お母さん容赦しないから」
「……でも」
「どうしたの?」

 お母さんと担任に言いたくなかった最大の理由。
 どうしてもこの理由ばかり頭を抱えていた。

「先生や……お母さんにチクっただろって。更に皆に虐められたら……」
「そんなことっ!!」

 させるもんか!と、お母さんが更に私を抱き締める。回す腕が強くてかけてる眼鏡が痛い。
 だけど安心するお母さんの匂い…。大好きなお母さんの匂い。
 かとま君みたいにハッキリ言えるよ、私もお母さんの匂い大好きだよ。

「とりあえず、ご飯食べようか。お腹空いたでしょ?何食べたい?」
「お母さんの唐揚げ」
「任せろ!」

 お母さんとまた前みたいな関係に戻ったみたいで嬉しくてたまらない。
 少し怖いけど、だけどいつも一番の味方でいてくれるんだ。台所で唐揚げの下準備をしてるお母さんを横目にふと、自分の机に目線を向けて置きっぱなしの漫画のノートを見る。

 かとま君というキャラクターがヒロインの女の子を助けてくれているシーンで止まっている。
 なんだか本当にそうなったみたいだよ。
 きっとかとま君はそんな自覚無いだろうけどね。