「あれ!?」



 空き地の真ん中で立ち尽くしていると、聞いたことがある声がしてその声に視線を向ける。




「ななこちゃん!お母さんホラ!ななこちゃんだよ!」
「かとま!!」

 近くて遠く聞こえたかとま君と、女の人の声。

「……かとま……くん」

 朝とは逆の立ち位置。広場の真ん中でポツンと立っている私と、歩道から私を見つけるかとま君。
 またして彼が私を見つけては走って駆け寄って来てくれる。
そして、その後ろからも走って追いかける女の人の姿。

「ハァハァ……。かとま、足早いからお母さん追い付くの大変……って、どうしたの!?貴方上着は!?」
「……」
「ななこちゃん、寒い?僕の上着着なよ」
「そうねそうね!かとまは男の子だから少しくらい寒くたって平気ね!これ!私のマフラー巻きなさい!」

 かとま君の着ていたネイビー色のダウンジャケットに、女の人から良い匂いがするマフラーを首に巻いてくれる。
 震えは止まらないが、身に付けただけで身体がポカポカと暖まっていくが、二人の姿を見ては流していた涙が更に増えてしまう。

「ななこちゃん?どうしたの?何処か痛い?」
「とりあえず、お家行きましょ?あら、手も氷みたい!おばさんのポケットにカイロあるからこれ持ちなさい」

 渡されたカイロを両手に持ち、じんわりと戻っていく指先の感覚。感覚がゆっくりと元に戻るのを感じると、少し痛いくらいだ。
 上着を渡してくれたかとま君は、さむーい!と大声を上げながら白い息を吐いていたが、ワンちゃんをブンブンと振り回して、何処か楽しそうだった。

「ななこちゃん、ここ僕のお家!」
「ななこちゃんて言うの?良かったら上がってお茶飲んでいって?」
「……」

 つい困ってしまい、玄関で立ち止まっていると、かとま君は「僕の上着返してね?」と、最もらしい理由で着ていたダウンを脱がそうとする。

「こらっ!かとま!ごめんなさいね。失礼なこと言って。どうぞ上がって上がって」
「……はい……です」

 脱がされた上着のせいで、背中がひんやりと冷気を感じ、またしても震えてしまう声に変な敬語。とりあえずマフラーも返さなきゃと玄関に入らせてもらう。
 当たり前だが、外とは違う温度にホッとして気温差で曇った眼鏡を服の袖で拭う。
 だけど、このまま上がっても良いのかやっぱり躊躇してしまう。

「大丈夫よ?かとまが変なこと言ったらおばさんやっつけるから!」
「言わないよ!」
「ふふ……」

 会話のやり取りが可笑しくて、思わず笑ってしまう。きっとかとま君のお母さんかな。優しそうな人柄に、顔は似てないが何処か似ている雰囲気。
 リビングに入ると白い壁に、かとま君が書いた習字や絵がバランス良く飾られていた。大きな黒いソファーに真っ先に座るかとま君は、嬉しそうに私を見てニコニコしている。

「お客さんが珍しいから嬉しいね。ななこちゃんだっけ?ココア飲める?」
「飲める!」
「かとまに聞いてない。ななこちゃんに聞いてるの」