「はぁ……シャルロッテ。あなた本当にどうしちゃったの」

 昼下がりの賑わう中心街、ウィンドウショッピングを楽しんでいる風のシャルロッテは大きなため息をついた。

 少し前のこと、シャルロッテはスワードとその恋人に対面した。彼女はまさに「王国の麗星」に相応しい完璧な美少女だった。

 シャルロッテはショーケースに飾られたジュエリーを見ながら、自分に無くて彼女に有る輝きを数えた。
 ハスキーな声が色っぽくて人懐っこい笑顔が輝いて、この上なく愛らしかった。
 体を鍛えているためか見た目によらず力もあって、女性なのに紳士的な振る舞いまで出来る嬉しいギャップ付き。
 これでもかと言わんばかりに魅力を兼ね備えた女性。

 シャルロッテは内省する。
 「力の強さ」なら自分にもあるが、それが規格外の「怪力」となれば話は別だ。
 嬉しくないギャップである。

(おまけに逃げるように王宮を出て…2人ともびっくりしたでしょうね)

 シャルロッテは己の衝動的な振る舞いに大いに後悔していた。
 早朝から恋人達の逢瀬を覗き見し、悪意はなかったにしろ草陰から飛び出て2人の時間の邪魔をしてしまった。

 実に淑女らしからぬ行動だ。
 穴があったら入って世界の裏側まで掘り進めたい。
 そしてシャルロッテはこの一連の失態を振り返り、全ての過ちがある1つのものに起因していると考えた。

 それはずばり、「尖った感情」。
 2人を見てから終始煮えくりかえる胸焼け、この謎の「尖った感情」が、焦燥感や衝動を掻き立てている。

 一般的な感情は瞬発的に昂るものだが、こと「尖った感情」においては例外だ。
 現にこうして物理的に2人から離れてみても、この「尖った感情」は未だ収まらず、シャルロッテのみぞおちと血が煮沸し続けている。
 そして何度も何度も、頭の中でスワードと美少女の笑顔が脳内で回想されては昂っていた。

(頭を冷やしたいのに…いいえそれじゃ足りなさそう。脳みそを氷水で冷やしたいわ。いっそ怪力で頭をかち割りましょうか)

 シャルロッテはそんな荒唐無稽なことを考えながら、手持ち金でアイスクリームを買った。少しでも頭が冷えるようにとチョコレートミントをチョイスして、清涼感を感じながら街を散策する。
 そうして歩いていくうちに道が開け、大ききな白亜の噴水に辿り着いた。
 見ればその水底には沢山のコインが沈んでおり、光の加減で水光と共に輝いている。
 ちょうど向こう側ではどこかのカップルが噴水にコインを投げ入れ、手を組んで水面に祈っていた。

「銅貨じゃ願いなんて叶いっこないわダーリン」
「いやいやこういうのは気持ちが大事なんだよハニー」

(あら、つまりお金を積んで気持ちを込めれば願いが叶う……ってこと?)

 そんな俗物的でいやらしい神がいてたまるものか、とは思ったが、しかしシャルロッテは大盤振る舞いで金貨を投げ入れた。
 アイスクリームを乗せたコーンをロザリオのように握りながら祈りを捧げる。

(胸焼けが治りますように!この、「尖った感情」が消えますように!)

 そうしてシャルロッテが敬虔な教徒顔負けの曇りなき眼で天を仰ぐと、背後から二度と聞きたくなかった声がした。

「もしかしてシャルロッテ嬢ですか?」

 シャルロッテは恐る恐る振り向いた。
 その声の主は家門を象徴する「モーヴ」色の瞳と髪を輝かせてこちらへ向かってきた。
 

 彼はジャンキー・モーヴ公爵令息。
 「怪力で女らしくないから」という理由でシャルロッテを捨てた、薄情な元婚約者だ。