『血と血の盟約を、汝と交わす』
血の盟約。
火竜の血で、俺の額に印をつける。
特に決まった印とかじゃなく、なんでもいいらしい。
火竜は自分の体を傷つけ、その爪先についた血で俺の額に線を引いた。
「血の盟約を、火竜と交わす」
俺は指先に傷をつけ、火竜の額に――『炎』と書いた。
書き終わった途端、額が熱くなる。
書いたばかりの『炎』の文字が光り、それが収まると俺の額の熱も消えた。
「お、終わり?」
『そうだ。スキルを使ってみろ。枯渇症状が出るまで』
「お、おう」
さっきまでスキルを使っていたし、魔力はそんなにそんなに残っていない状況だ。
適当に数十粒ぐらいかな、掴んでスキルを使おうとすると、
『もっとだ、もっと』
と火竜が促す。
『万が一倒れても、娘らが面倒みるであろう』
「倒れるの前提か……」
『万が一だ。万が一』
ルーシェとシェリルの二人は頷いている。
アスやワームたちもだ。
ま、みんなが傍にいるなら大丈夫か。
がばっと種を掴んで――
「"成長促進"」
「――終わった」
「お疲れ様です、ユタカさんっ。ご気分はどうですか? 吐きそうだとか、眩暈がするだとか」
「いや、ない。全然まったくない」
「凄い……何日分のスキルを使ったのよ」
十八日分、ぐらいだろうか。
眩暈はおろか、倦怠感すら感じていない。
火竜の魔力を借りるって、こういうことなのか……。
どんだけ魔力があるんだよ、火竜は。
あ、俺の魔力じゃなくって火竜の魔力を使っているから、向こうに枯渇症状が出ていたりするんじゃ。
ちょっと心配になって火竜を見上げてみたが、特に変わった様子は見られない。
「魔力、大丈夫そうだけど、実際どうなんだ?」
『多少は減っておる。多少な』
多少かよ。
『それで分かったことがある』
「ん?」
『その成長促進なるスキル。消費魔力は少ないようだ』
「え、そうなのか?」
火竜は頷き、魔術師が使う初級魔法と同程度だという。
『初級魔法であっても、魔術師でもない一般の人間にとっては魔力の消費量は多く感じるものだ』
「そっか。俺は魔術師じゃないもんな。最初の魔力量が少なかっただろうし」
実際、最初に比べると倍近くボンズサボテンを成長させられるようになったもんな。
『いや、決してそういう訳ではない。魔力の使い方を理解しておらぬから、効率が悪いのであろう。実際、お前に流れ込んだ割れの魔力を見ていると、半分近くが駄々洩れになっておる』
「漏れてる!? も、漏れた魔力ってどうなるんだ?」
『我の魔力に関しては、我に戻って来る。お前自身の魔力は、漏れで消えるだけだ。簡単に言えば、無駄に消費しているだけ』
無駄あぁぁぁ。
『人間の魔術師がおったであろう。あの者から魔術を教われ。基礎からな。そうすればスキルの効率もよくなるだろう』
「そうするよ。よし、最後にあの種だな」
花の種はアスとルルがせっせと撒いている。
残るは大地の木だけだ。
『童の手で植えてやりたい』
「ん? アスの? んー、まぁそうだな。おーい、アス」
アスとルルは、種を包んだ布を広げて、そこに息を吹きかけて飛ばしている。
たまにアスは小さな翼を広げ、羽ばたくようにしてさらに遠くへ飛ばしたりもしていた。
俺の声に気づいたアスが、とてとてと戻って来る。
『ナァニ?』
「この種、植えるぞ」
『ア、大キナ木ノタツダ』
「大地の木って呼ばれるぐらいだ。アースドラゴンのお前が植えるといいんじゃないかなぁと思ってな」
『植エル植エルゥ』
さて、何年分成長させるかな。
数千年って言ってたけど……とりあえず五分後に千年成長っと。
「"成長促進"。よし、アス。五分だ。五分後に成長するぞ」
『イソゲ、イソゲ』
アスはザッザッザと土を掘り、種をころんと置いて土を被せた。
それからじーっと土を見つめ、しばらくするとにょきっと芽が。
『下がらねば木に巻きつかれるぞ』
「そうだった。アス、めちゃくちゃ大きくなるから下がれ」
『ウ、ウンッ』
慌ててその場から離れ、振り向いた時にはツリーハウスより数倍デカい木になっていた。
「すっっげぇ……」
『ウワァァ』
「なんて見事な木なんでしょう」
「ほんと……凄いわね」
凄い――としか言えない。
こんな巨大な木が存在するなんて……。
あれ?
そういえば、こんなデカい木がそびえ立っているのに、日差しを遮ってない。
葉っぱだって生い茂ってるってのに。
ん?
「日差しが葉っぱを貫通しているのか!?」
『そうだよ。暑い時期は日差しを遮ってくれるし、今みたいにまだ気温がそう高くない時期には、日差しを通すんだ』
「うわっ!? で、出たなベヒモス」
『やだ、ベヒモスくんって呼んで』
と、足元のウリ坊が仰っている。
ドリュー族のボクカワイイに通じるものがあるな。
「ちょうどいい。ベヒモス『くん』……くん。花畑を復活させたぞ。どうだ?」
『うーん。君にとってあの条件は、緩すぎたみたいだねぇ。異世界人だってのは気づいてたけど、まさかあんなスキルを持ってたなんて』
「い、今から試練の内容変更とかなしだからなっ」
『わかってるよぉ。ぼくだって大がつく精霊なんだ。一度言ったことなんだから――漢に二言はない』
なんで「漢に~」の下りで巨大化するんだよ!
マッチョ自慢か?
そうなのか?
『ってことで、契約してあげるよ』
「すぐウリ坊に戻るんだな」
『こっちの方がかわいいでしょ?』
やっぱりドリュー族と同じ類のヤツじゃん。
血の盟約。
火竜の血で、俺の額に印をつける。
特に決まった印とかじゃなく、なんでもいいらしい。
火竜は自分の体を傷つけ、その爪先についた血で俺の額に線を引いた。
「血の盟約を、火竜と交わす」
俺は指先に傷をつけ、火竜の額に――『炎』と書いた。
書き終わった途端、額が熱くなる。
書いたばかりの『炎』の文字が光り、それが収まると俺の額の熱も消えた。
「お、終わり?」
『そうだ。スキルを使ってみろ。枯渇症状が出るまで』
「お、おう」
さっきまでスキルを使っていたし、魔力はそんなにそんなに残っていない状況だ。
適当に数十粒ぐらいかな、掴んでスキルを使おうとすると、
『もっとだ、もっと』
と火竜が促す。
『万が一倒れても、娘らが面倒みるであろう』
「倒れるの前提か……」
『万が一だ。万が一』
ルーシェとシェリルの二人は頷いている。
アスやワームたちもだ。
ま、みんなが傍にいるなら大丈夫か。
がばっと種を掴んで――
「"成長促進"」
「――終わった」
「お疲れ様です、ユタカさんっ。ご気分はどうですか? 吐きそうだとか、眩暈がするだとか」
「いや、ない。全然まったくない」
「凄い……何日分のスキルを使ったのよ」
十八日分、ぐらいだろうか。
眩暈はおろか、倦怠感すら感じていない。
火竜の魔力を借りるって、こういうことなのか……。
どんだけ魔力があるんだよ、火竜は。
あ、俺の魔力じゃなくって火竜の魔力を使っているから、向こうに枯渇症状が出ていたりするんじゃ。
ちょっと心配になって火竜を見上げてみたが、特に変わった様子は見られない。
「魔力、大丈夫そうだけど、実際どうなんだ?」
『多少は減っておる。多少な』
多少かよ。
『それで分かったことがある』
「ん?」
『その成長促進なるスキル。消費魔力は少ないようだ』
「え、そうなのか?」
火竜は頷き、魔術師が使う初級魔法と同程度だという。
『初級魔法であっても、魔術師でもない一般の人間にとっては魔力の消費量は多く感じるものだ』
「そっか。俺は魔術師じゃないもんな。最初の魔力量が少なかっただろうし」
実際、最初に比べると倍近くボンズサボテンを成長させられるようになったもんな。
『いや、決してそういう訳ではない。魔力の使い方を理解しておらぬから、効率が悪いのであろう。実際、お前に流れ込んだ割れの魔力を見ていると、半分近くが駄々洩れになっておる』
「漏れてる!? も、漏れた魔力ってどうなるんだ?」
『我の魔力に関しては、我に戻って来る。お前自身の魔力は、漏れで消えるだけだ。簡単に言えば、無駄に消費しているだけ』
無駄あぁぁぁ。
『人間の魔術師がおったであろう。あの者から魔術を教われ。基礎からな。そうすればスキルの効率もよくなるだろう』
「そうするよ。よし、最後にあの種だな」
花の種はアスとルルがせっせと撒いている。
残るは大地の木だけだ。
『童の手で植えてやりたい』
「ん? アスの? んー、まぁそうだな。おーい、アス」
アスとルルは、種を包んだ布を広げて、そこに息を吹きかけて飛ばしている。
たまにアスは小さな翼を広げ、羽ばたくようにしてさらに遠くへ飛ばしたりもしていた。
俺の声に気づいたアスが、とてとてと戻って来る。
『ナァニ?』
「この種、植えるぞ」
『ア、大キナ木ノタツダ』
「大地の木って呼ばれるぐらいだ。アースドラゴンのお前が植えるといいんじゃないかなぁと思ってな」
『植エル植エルゥ』
さて、何年分成長させるかな。
数千年って言ってたけど……とりあえず五分後に千年成長っと。
「"成長促進"。よし、アス。五分だ。五分後に成長するぞ」
『イソゲ、イソゲ』
アスはザッザッザと土を掘り、種をころんと置いて土を被せた。
それからじーっと土を見つめ、しばらくするとにょきっと芽が。
『下がらねば木に巻きつかれるぞ』
「そうだった。アス、めちゃくちゃ大きくなるから下がれ」
『ウ、ウンッ』
慌ててその場から離れ、振り向いた時にはツリーハウスより数倍デカい木になっていた。
「すっっげぇ……」
『ウワァァ』
「なんて見事な木なんでしょう」
「ほんと……凄いわね」
凄い――としか言えない。
こんな巨大な木が存在するなんて……。
あれ?
そういえば、こんなデカい木がそびえ立っているのに、日差しを遮ってない。
葉っぱだって生い茂ってるってのに。
ん?
「日差しが葉っぱを貫通しているのか!?」
『そうだよ。暑い時期は日差しを遮ってくれるし、今みたいにまだ気温がそう高くない時期には、日差しを通すんだ』
「うわっ!? で、出たなベヒモス」
『やだ、ベヒモスくんって呼んで』
と、足元のウリ坊が仰っている。
ドリュー族のボクカワイイに通じるものがあるな。
「ちょうどいい。ベヒモス『くん』……くん。花畑を復活させたぞ。どうだ?」
『うーん。君にとってあの条件は、緩すぎたみたいだねぇ。異世界人だってのは気づいてたけど、まさかあんなスキルを持ってたなんて』
「い、今から試練の内容変更とかなしだからなっ」
『わかってるよぉ。ぼくだって大がつく精霊なんだ。一度言ったことなんだから――漢に二言はない』
なんで「漢に~」の下りで巨大化するんだよ!
マッチョ自慢か?
そうなのか?
『ってことで、契約してあげるよ』
「すぐウリ坊に戻るんだな」
『こっちの方がかわいいでしょ?』
やっぱりドリュー族と同じ類のヤツじゃん。