学年末テスト三日目が終了し、私は自室でテスト勉強をしていた。

 テスト期間は午前中で放課となるため帰りは美月と蘭々と小畑さんと一緒に学校近くのファミレスでお昼ご飯を食べ、現在は午後二時。

 数学Ⅰと英語という比較的重い教科が残されているものの桜高校のテストのレベルであれば数学は今すぐテストを受けても九割五分はほぼ確実に取れるし、英語もテスト範囲の英単語をもう一度確認しておけば満点近く取れる。

 数学で一問だけ出される高レベルの問題の対策でもするかと思い参考書を開いたところでスマホにメッセージが届いた。

 学校で預けるときも音が出ないようにしているし、テスト期間中は帰りにスマホを返却されても勉強中に見ないようにサイレントモードを解除していなかったが、先ほどのファミレスで何故かスマホの着信音の話題になったときに解除してしまっていた。

 蘭々は私からの着信音だけは何故か変更しているらしい。私も美月だけは変えている。

 気になる。気になって集中できない。だからいつも勉強中はサイレントモードにしていたというのにとんだミスをしてしまった。

 悩んだ末、気になったまま勉強するより見てしまった方が良いかという結論に至り誰からのメッセージかを確認した。

【合格したよ 一応報告だけ テスト勉強中だろうから返信はしなくても良いよ】

 日夏さんからだ。こんなおめでたいことに返信しないわけにはいかない。

【おめでとうございます!】

 と返信すると、すぐにさらなる返信がきた。

【明日、テストが終わったあと時間ある?】

 返信しなくて良いと言いながらまるで返信を待っていたかのようなスピードの対応に驚く。

 日夏さんが私と話をしたいと思っている。日夏さんも当然真人君の件を知っているはずだからきっとそれに関することだ。私が悩んでいることもお見通しなのだろう。

 そういえば真人君や伊織に泣かされたら二人をとっちめてくれると言っていたから、とっちめてもらった方が良いのかもしれない。それか良いアドバイスをもらえるか。どちらにせよ日夏さんには挨拶をしておきたかったので断るという選択肢はない。

【はい いつでも何時でも大丈夫です】

【それじゃあ帰りのホームルームが終わったら図書室に来て 待ってるよ 勉強頑張ってね】

【分かりました ありがとうございます】

 日夏さんとのやり取りを終えてしばらく勉強を続け、ひと段落したのでココアでも入れようかと思い部屋を出ると、ランニングでもしてきたのかジャージ姿の伊織と廊下で鉢合わせた。

 ちゃんとしなくてはと思ってはいるがどうにも気まずくなって何も言えない日々が続いている。それは伊織も同じのようで、私と顔を合わせるといつも申し訳なさそうな顔をしながら目をそらす。

 でも今日だけは共通の知り合いにおめでたい話題があったので、勇気を振り絞って話しかけることにした。

「日夏さん、大学受かったって」

「……ああ、バスケ部のグループにも回ってきた」

「すごいよね。部活を十二月の終わりまでやりながらなんて」

「……そうだな。バスケ部の皆で応援してた。日夏先輩のために三年生のお別れ会も卒業式の日から明日にずらしたし」

「何時から?」

「え? テスト終わった後、十二時に体育館に一旦集まってその後予約してる焼き肉屋に行くけど……そういえば日夏さんは用事があって遅れるから直接焼き肉屋に行くってさっき連絡があったな」

 私と会うからだ。大切な部活仲間との時間を割いてまで私の話を聞こうとしてくれている。私は日夏さんから見ればただの部活の後輩の妹に過ぎないのに、なんて優しい人なのだろうか。私の周りには優しい人ばかりでありがたいことこの上ない。

「詩織、あのさ」

「何?」

「今も真人のこと好きか?」

 おびえたように弱々しい尋ね方。伊織らしくもない。

「うん。それは変わらないよ」

「詩織はどうしたいんだ? 俺は何をしたらいいんだ?」

 バレンタインデーに真人君から隠し事を告げられた日と同じ質問だ。伊織もきっと後悔していて、ずっと悩んでいるのだろう。それでも答えが出ていない。

「私がしたいことは決まったよ」

 今思っていること、あのとき抱いた感情を全てぶつける。そして彼女にしてもらう。真人君に話すべきことはもう決まっている。でも、まだそれを実行するための決心がついていない。

 結局半年後には離れ離れになってしまうという未来が見えていることが心に影を落としている。それを払拭することができていない。

「俺は……」

「して欲しいことが決まったら言うよ」

「……なんでもするから」

 伊織はそう言い残して自分の部屋に入った。

「なんでも、か」

 それなら今すぐにでも美月と付き合って欲しいのだけれど、それでは美月は喜べない。

 美月のためにも早くもう一度真人君と話して結論を出したいけれど、真人君の顔を見ると頭や体が自分の物ではないみたいに言うことを聞かなくなって避けてしまう。