初めて見たときから気になって仕方がなかった女の子。

 ほかの誰とも違っていた。

 クラス中から無視されていることがどうでもよく思えるくらい、毎日、高梁さんのことで頭がいっぱいだった。

 高梁さんが線路を踏み越えようとしたとき、警報音がものすごく近くに聞こえて、本当に消えてしまうんじゃないかと思った。

 でも、手を掴めた。
 高梁さんは、ちゃんとそこにいた。

 それなのに……いまも、ここにいるのに。

 ーー高梁さんが、いなくなる……?

 まだドクドクと鳴っている自分の心臓の音。

 この何倍も速いって、どういうことなんだろう。

 人の何倍もの速さで終わりが近づいてくる。
 経験したことがなくても、想像だけはできる。

 それはすごく、怖いことだった。

「暗い話してごめんね」
 高梁さんが言った。
「琥珀糖、食べようよ」
 そう言って、肩にかけた鞄から袋を取り出した。

 僕は何も言えずにリュックを開けた。

 赤やオレンジや水色の四角い砂糖菓子。
 暗闇で光る蛍光色みたいに、琥珀糖は輝いていた。
 蛍光の塗料なんて入っていないはずなのに、嘘みたいに夜の中で光って見えた。

 ひと粒指でつまんで口に入れる。甘くて柔らかくて、泣きたくなった。

「星、きれいだね」
 高梁さんが空を見上げて言った。

「うん」
 僕も見上げてうなずく。

 空には星が散りばめていた。
 夜は地元よりずっと明るくて、目に見える星は少ないけれど。
 どこで見る星も、やっぱりきれいだと思った。
 遠くの空を飛行機の黒い影が飛んでいく。
 どこに向かって飛んでいるのだろう。

「空、飛びたいなあ」

 高梁さんが立ち上がって手を伸ばした。何か、届かないものを掴もうとするように。

「一度くらい、空を飛んでみたい」

 賑やかな祭りの音が聞こえる。
 楽しそうな人の中で、高梁さんだけが限りなく透き通っていた。
 夜の空気にいまにも溶けて消えてしまいそうだった。

 ーー嫌だ。

 前にそう思ったときより、何倍も強く。

 消えてほしくない、と思った。