川辺に下りると、祭りの賑やかさが少し遠のいて、蒸し暑さも風に吹かれて流れていった。

 川べりではカップルたちが等間隔で座っていた。
 彼らは程よい距離を空けることで自分たちの空気をそこに作り出していた。
 祭りで賑わう大勢の中の、二人だけの空気がそこにあった。

 僕らも彼らに混じって座った。
 後ろから見ると、まわりのカップルたちと何ら変わらないカップルに見えているのかもしれない。

でも僕らはカップルではなくただのクラスメイトで、高梁さんは透けていて、僕はそのことについてずっと考え続けているけれどいまだに何もわからないままだ。

 どうして透けてるのか。
 もうすぐ死ぬって、どういう意味なのか。
 あのとき、なんで、線路に飛び込もうとしたのか。

 この一ヶ月、いろんな高梁さんを知ったけれど、肝心なことはわからないままだった。

 聞くならいましかない、と思った。

「高梁さん」

 僕は言った。

「ん?」

 高梁さんが僕を見て首をかしげる。
 その仕草に、なぜか、胸が締め付けられるような気がした。

「……前に、やっぱりもうすぐ死ぬんだって、言ったよね」

「うん。言ったね」

「あれって、どういう意味?」

 高梁さんは、じっと僕の顔を見た。

「そのままの意味だよ」

 と高梁さんは言った。

「私、もうすぐ死ぬんだ。たぶん、あと一年くらいで」

 ドクン、と心臓が大きく音を立てた。

 心のどこかでは思っていた。
 もしかしたら高梁さんは、貧血とかじゃなくて、本当は何か重い病気なんじゃないか。
 体育の授業、高梁さんはいないことが多かった。
 勝手にサボりだと思っていたけど、違うんじゃないか。

 でも、想像するのと、実際に聞くのでは、全然違った。


 聞くのが怖かった。
 あのときよりもずっと。
 僕の中で、高梁さんの存在が大きくなっていたから。

「私、頻拍性っていう病気なの。生まれつき心臓が小さくて、心拍数が人の何倍も速いの。だからその分、寿命も普通の人よりずっと短いんだ」

 頻拍性。初めて聞く言葉だった。

「私の体、もうおばあちゃんくらいなんだ。たくさん歩いたらすぐへとへとになるし、全力で走ったら呼吸困難になる。でもね、どうしても、最後に行きたかったから。親には心配されたけど、無理言って来ちゃった」

 すらすらと話す高梁さんは、全部受け止めているようで。
 僕はその言葉の全部を受け止められずに、呆然としながら聞いていた。

 僕は浮かれていた。

 てるてる坊主なんか作って、晴れるといいな、と考えながら。

 退院したばかりの高梁さんが、急ぐように京都に行きたいと言った理由を、考えもしなかった。

僕がただ浮かれて楽しんでいたこの時間は、高梁さんにとって、全然違う意味をもっていたんだ。


 最後、だったんだ。