大島が教壇に立って、わざとらしく教室を見回した。

「今日は目障りなのがいないから空気がいいな」

 朝の挨拶と同じように、笑顔でそう言った。
 そして演説するみたいに教壇に手をついて続ける。

「いい機会だから大事なことを言っておこう。お前たちはまだ学生だからピンとこないかもしれないけど、社会に出たら上の者には絶対に敬わなければならないんだ。そんな簡単なルールすら守れないような奴は必要とされない。ゴミ同然だ。当然罰が下る。どうなるかは、もうわかってるな」

 教室は静まり返っていた。誰も、何も言わなかった。
 何か言えば、自分も同じ目にあうのはわかっていたから。
 何もしないことが、自分を守る、いちばん楽な方法だから。

ーーこんなの、やっぱりおかしい。

 あまりに静かな空気に、私は全身がぞっと粟立った。

 大島はまったく反省なんてしていなかった。
 自分のせいで学校に来れなくなった生徒のことだって、自分に歯向かったから当然だと思っている。
 その気分がよさそうな顔を見て、そう確信した。

 何も変わってない。
 変わるはずがなかった。
 こんな奴の好きには絶対にさせない。
 なんとかしなきゃ。
 誰がやらなくても、私が。

 笹ヶ瀬くんがいなくなってしまう前に。