よく眠れた後の夢見心地の翌日は、いつも通りのはずだった。
「川崎さん!今日も数学の課題教えてくれない?私、本当に数学苦手なのー!」
「美坂さん……」
「だめ?」
ちゃんと断らないと。そう思っているのに、昨日の夢のせいだろうか。少しガードが緩んだままの私は、「いいよ」と短く答えてしまった。
「えっと、この問題はこの公式に当てはめて……美坂さん?聞いてる?」
「あ、ごめん!聞いてる!川崎さんって教えるのが上手だなって思って!」
だって私は最近、誰かにもし教えるならこうするのにって考えながら問題を解いている。もし病気がなくて、誰とでも気兼ねなく話せたらって。
教え終わった後に、美坂さんは鞄からいくつかお菓子を取り出す。
「はい、川崎さん!どれがいい?」
美坂さんの机の上には、飴とチョコレート、クッキーが並んでいる。
飴が一番「寂しさ」に効くだろう。だから、飴を取ろうと手を伸ばした。
「私のオススメは、このクッキー!めっちゃお気に入りなんだよね!」
しかし、その言葉に私はついクッキーを手に取ってしまう。
「あ!クッキー選んでくれた!ありがとう、川崎さん」
そう言って、笑った美坂さんはとても可愛くて、私はつい嬉しくなってしまった。
そして、すぐに我に返る。だめだ、喜んじゃダメ。私は人と関わっちゃダメなんだから。
私は美坂さんと話し終えると、すぐにいつもの空き教室に逃げ込んだ。少しだけ、寂しさが顔を出し始める。
お母さんはもう仕事が始まるし、学校内だから菅谷くんに連絡は出来ない。
今、手元にはぬいぐるみもないし、飴もない。あるのは、美坂さんに貰ったクッキーだけ。効果がないのは分かっているのに、私はクッキーの封を開けて、クッキーを口に運んだ。
「美味しい……」
涙が溢れるのに、溢れた言葉は「寂しい」じゃなくて、「美味しい」だった。
「嬉しい、嬉しいの……」
いつも「寂しい」と繰り返すはずの言葉は、「嬉しい」に変わる。
「また、お礼言えなかった」
こんなに嬉しい気持ちを貰ったのに。私はいつも病気のせいにしてばかり。お礼を言えなかったのは病気のせいなの?
手で握っているのはいつものぬいぐるみじゃないくて、中身のないクッキーの包み紙。寂しさは消えない、無くならない。それでも、包み紙をぎゅっと握り締めれば、少しだけ「勇気」が出る。
涙を拭う。
どうか、少しだけでも進んで。私。
空き教室を飛び出し、教室に戻る。
「美坂さん……!」
「川崎さん?どうしたの?」
「クッキー美味しかった……ありがとう……」
震えながらでも言えただろうか。伝わっただろうか。
「数学を教えて貰ってお礼をいうのは私の方なのに!お礼のお菓子にお礼を言うって、川崎さん優しすぎない!?」
たったそれだけの会話。それ以上はやっぱり近づくわけにはいかなくて、話さなかった。
それでもその日一日、何故か私は寂しくなかった。
「川崎さん!今日も数学の課題教えてくれない?私、本当に数学苦手なのー!」
「美坂さん……」
「だめ?」
ちゃんと断らないと。そう思っているのに、昨日の夢のせいだろうか。少しガードが緩んだままの私は、「いいよ」と短く答えてしまった。
「えっと、この問題はこの公式に当てはめて……美坂さん?聞いてる?」
「あ、ごめん!聞いてる!川崎さんって教えるのが上手だなって思って!」
だって私は最近、誰かにもし教えるならこうするのにって考えながら問題を解いている。もし病気がなくて、誰とでも気兼ねなく話せたらって。
教え終わった後に、美坂さんは鞄からいくつかお菓子を取り出す。
「はい、川崎さん!どれがいい?」
美坂さんの机の上には、飴とチョコレート、クッキーが並んでいる。
飴が一番「寂しさ」に効くだろう。だから、飴を取ろうと手を伸ばした。
「私のオススメは、このクッキー!めっちゃお気に入りなんだよね!」
しかし、その言葉に私はついクッキーを手に取ってしまう。
「あ!クッキー選んでくれた!ありがとう、川崎さん」
そう言って、笑った美坂さんはとても可愛くて、私はつい嬉しくなってしまった。
そして、すぐに我に返る。だめだ、喜んじゃダメ。私は人と関わっちゃダメなんだから。
私は美坂さんと話し終えると、すぐにいつもの空き教室に逃げ込んだ。少しだけ、寂しさが顔を出し始める。
お母さんはもう仕事が始まるし、学校内だから菅谷くんに連絡は出来ない。
今、手元にはぬいぐるみもないし、飴もない。あるのは、美坂さんに貰ったクッキーだけ。効果がないのは分かっているのに、私はクッキーの封を開けて、クッキーを口に運んだ。
「美味しい……」
涙が溢れるのに、溢れた言葉は「寂しい」じゃなくて、「美味しい」だった。
「嬉しい、嬉しいの……」
いつも「寂しい」と繰り返すはずの言葉は、「嬉しい」に変わる。
「また、お礼言えなかった」
こんなに嬉しい気持ちを貰ったのに。私はいつも病気のせいにしてばかり。お礼を言えなかったのは病気のせいなの?
手で握っているのはいつものぬいぐるみじゃないくて、中身のないクッキーの包み紙。寂しさは消えない、無くならない。それでも、包み紙をぎゅっと握り締めれば、少しだけ「勇気」が出る。
涙を拭う。
どうか、少しだけでも進んで。私。
空き教室を飛び出し、教室に戻る。
「美坂さん……!」
「川崎さん?どうしたの?」
「クッキー美味しかった……ありがとう……」
震えながらでも言えただろうか。伝わっただろうか。
「数学を教えて貰ってお礼をいうのは私の方なのに!お礼のお菓子にお礼を言うって、川崎さん優しすぎない!?」
たったそれだけの会話。それ以上はやっぱり近づくわけにはいかなくて、話さなかった。
それでもその日一日、何故か私は寂しくなかった。