私の予想通り、彼とは何かと一緒になることが多かった。例えば論理表現の授業中、英作文を作って読み合う時も永治くんは居た。

 
 4人グループでそれぞれの英作文について感想を言い合え、暇を持て余していたが故に、私は彼に話しかけてみた。


「永治くんはさ、中学で何部だったの?」


「俺?実はバスケ部だったんだよね」


「えっ、バスケ!?」


 思わず復唱した。正直、彼がバスケ部だとは思わなかった。教室内ではいつも席に静かに座っているイメージがあったし、入部した部活も文化部系だったから。


 定着し始めていた彼への印象を変えさせられるギャップに、私は興味が湧いた。


 多分その頃からだったのだろう。私が、体育の授業で彼の姿を探すようになったのは。


 私の高校は体育の殆どが男女別で行われた。だから、基本体育の最中は男子が何をしているのか見ることができない。けれど、片付けや体育館に戻る一瞬、まだ運動している男子らの中から、永治くんを探すのが癖になってしまった。


 激しく運動している姿は見ることができない。だが、片付けや軽く体を動かしている場面に出くわすと、高い身長も合間ってなんだかかっこよく見えた。


 そうして、気がつかないうちに彼を意識し始めている自分がいた。


 美術の授業の時間は席が隣で、距離の近さに恥ずかしさと嬉しさを感じていた。何気ない会話もできるし、たまにギャグを言うところに意外性を感じた。永治くんはもっと大人しくて静かなキャラかと思っていたが、結構面白くて楽しい人だった。


 新しく発見する彼の性格に、不思議と私は惹かれていた。


 1年生の冬ごろ、保健の授業で動画を作成するという課題が出された。私は4人グループで、永治くんと私と2人の男子。保険のたびに永治くんと話すきっかけができるのが、なんだか嬉しかった。動画の撮影は放課後にも行い、永治くんともう1人の男子が遊んでいる姿に、可愛いなんて思ったこともあった。これもギャップ萌えってやつなのだろうか。


 そんな風に、永治くんについて色々と知ることができたその一年、気がつけば、私は彼に恋をしていた。もっと一緒にいられたら、と思ってしまった。でも、彼は私をどう見ているのかわからない。そもそも、名前を呼ばれた記憶すらない。多分、クラスメートの1人、ぐらいの認識なのだろう。それに、仮に告白したとして、フラれたらその後の関係が気まずくなる。色々とリスクを考えると、どうしても告白という選択肢は選べなかった。


 代わりに、私は祈った。せめて、来年のクラスが近ければ。彼と私の文理選択は違っていたため、同じクラスになることは不可能だった。ならび、せめても隣のクラスであれば。クラスが隣であれば、体育の時間だけでも一緒になれるから。そう願わずにはいられなかった。



     

 そして訪れる、クラス発表の日。恐る恐る名簿に目を通して、心の中で叫んだ。私と永治くんは隣のクラスだった。奇跡か偶然か、私の願いは叶った。


 私は即座に彼の元へさりげなく移動した。


「クラス分け見た?」


「うん」


「1組だよね?私2組なんだ。隣だね」


「ほんと?そうなんだ」


「また体育一緒になるね」


「確かに」
 

 短い会話だったけど、私は最高に嬉しかった。クラス分けをした先生にお礼を言いたいくらいだった。クラスメートも仲がいい子が多くて、私は2年生が楽しみになった。


 


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