「それじゃ、結、行ってらっしゃい。気をつけてね」
「うん。行ってきます」
緊張と高揚による胸の高鳴りを抑えながら、私は母に手を振って自転車に跨った。ゆっくり踏み込むと、折り畳み自転車の時には感じられなかった風圧を受ける。入学祝いと買ってもらった電動自転車で、私は颯爽と駅へ向かった。
高校の入学式を昨日に終え、今日からいよいよ本格的に授業が始まる。クラスには知り合いもいた。担任の先生も優しそうだ。不安といえば、授業についていけるかどうか、ということ。
最寄りの駅に着き、電車に乗り換える。今まであまり乗ったことがないせいか、やはり新鮮さを感じた。ただ、通勤通学ラッシュで押しつぶされるのは辛い。これからはもう少し早く家を出よう。
穏やかな揺れに身を任せて、途中で乗り換えをして2駅。私は電車から降りて改札を抜ける。地上に出て少し歩けば、すぐに高校についた。
「今日から、高校生だ……」
やっぱり実感がまだ沸かない。ちゃんと勉強できるだろうか。クラスメートと仲良くなれるだろうか。部活では上手くやっていけるだろうか。校舎を前に、不安が次々と生まれてくる。
私は一度深呼吸をして、
「よしっ」
教室に向かった。自分の席に着くと、「おはよう」と隣から声がかかる。高校に入る前から知っていた子、愛佳ちゃんだった。
「おはよう!」
「今日から授業始まるね」
「そうだよね。どうしよ、ちゃんとついていけるかな?」
「そんな不安にならなくても大丈夫だって」
愛佳ちゃんの天使のような微笑みに、幾分か緊張の糸が解けた。
「そうだよね」
安心した私は笑って椅子に座る。隣の子が知り合いで本当に良かった。知らない男子だったらどうしようと困ったこともあったのだから。
私は朝のホームルームまで予習や読書など適当に時間を潰す。チャイムが鳴ると、すぐに担任の先生が入ってきた。
「いよいよ今日から授業が始まります。ちゃんと勉強して、遊ぶ時は遊んで、メリハリを付けて生活しましょう。あと、このクラスは2時間目の前に集合写真を撮るので、1時間目が終わったら移動の準備をしてください」
その予告通り、1時間目の授業後すぐに呼ばれ、出席番号の順番に並んだ。私の一個前の番号は男子で、高身長だった。なんとなく中学の友達に似ているな、と心の中で思う。
雛壇に並ぶと、改めて身長の差が目立った。ゆうに20センチの差はありそう。写真を見返したら、きっと私のところだけ谷のように凹んでいるんだろうな、なんてことがどうしても頭をよぎる。
席も前後でこれから何かと関わりが多いだろう。私はこっそり写真で撮った名簿を見た。
永治。それが彼の名前だった。
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