それで満足していたはずなのに、クリスマスが近いせいか、親友の由奈(ゆな)に彼氏が出来たせいか、わたしのなかでもう一人のわたしが囁いた。


 どうせ告白もなにも出来ないで、ただのクラスメイトで終わるんだから、ほんの思い出にシャーペンくらい――。


 センチメンタルに酔った結果がこれだ。
 最低な思い出が出来上がってしまった。

「経験ない同士って、どうなんだろうな。やっぱり難しいのかな。小春ちゃんはどう思う?」

 まさか明希は、わたしにそういうこと(・・・・・・)を望む気なのか。
 ごくりと唾を飲み、絶望を飲み下したかったけれど胸に詰まった。

 ミルクティー色の前髪から覗く明希の目が、すっと細くなる。

「なんで顔、真っ赤にしてんの。経験って、彼氏がいた経験って意味なんだけど。違うこと想像してたでしょ。小春ちゃん、泥棒なうえにむっつりか。すごいな。佐野に教えてあげよ」

「や、やめてっ」

「なんで? うけると思うけど」

 ふるふると首を横に振ると、明希の目がますます細くなった。

 恐怖を煽る、三日月の目。
 仄暗い湿った教室で、明希は無邪気な子どものように言った。

「ちょっとつき合ってよ。黙っててあげるからさ」