「あのさ。数学の宿題、答えが完璧なのは感謝してるけど、あの落書きはなに? あの変な、くまみたいな犬みたいな猫みたいなのは」

 明希はわたしのノートにイラストを描いていた。頼りない、へろへろした動物らしきイラスト。

「あれは、くまぬちゃん」

「くまぬちゃん? そんなキャラいるんだ。知らなかった。流行ってるの?」

「ううん。世間の人は知らない。俺のオリジナルキャラだから。かわいいでしょ」

 ウケを狙うわけでもなく、さらっと言われ、思わず噴き出てしまった。
 数学の回答よりも大きなスペースを使って描かれたそれは、どう見たってかわいくはなかった。

「ところで小春ちゃんって、映画は好き?」

「好きだよ」

「じゃあ、映画行こ。観たいやつある?」

 ごく自然に。さも当然のように。
 歩き出した明希の手が、わたしの手を握る。

「ちょっと、これは……」

「この辺ならうちの学校の奴いないよ。ほら、寒いしさ」

 寒いと言うわりに、明希の手は熱っぽかった。さほど小さくもないわたしの手が、すっぽりと熱で包まれる。