「まあ、安物だったからいいんだけど。俺、ちょっと自販機行ってくるわ」

 そう言って佐野が教室を出ると、明希はぺたんこのリュックを開いた。

「ほい。数学のノート。小春ちゃんの字、相変わらずまん丸いのな。ダンゴ虫みたい」

「……ありがとう」

 差し出されたノートに手をのばす。わずかに触れる指先。
 自分のノートが明希のリュックから出てくるのはなんだか奇妙で、むずむずした。

「明希の英語のノート、机に入れておいた。たぶん間違ってない、と思う」

「サンキュ。お礼にこれあげる」

 わたしよりひと回りは大きい手が差し出したのは、無糖の缶コーヒーだった。ずいぶんと温かい。

「小春ちゃんは無糖だろ」

 机に置いてあった微糖コーヒーのプルタブを引き、明希は一気に飲み干した。
 一瞬のことで、わたしは止めることも、文句も言うことも出来ず、ただ目を見開いていた。

「放課後、昨日のドーナツ屋のとこで待ってるから」