いつもより早く登校して、明希の机にノートを押し込んだ。

 まだ眠い目を擦り、自分の机に突っ伏す。誰もいない教室はなんの乱れもなくて、ひんやりしている。

 女子高生も二年目となると新鮮味はない。

 一年生のころは漫画やドラマのような恋愛が、ある日とつぜん自分にもやってくるんじゃないか、と期待した。
 だけど現実は、イケてる同級生となんらかのハプニングで同居する羽目にはならないし、不良な先輩に「おもしれえ女」と顎をクイッと持ち上げられることもなかった。

 現実には起きないことだから。だから、そういう物語に需要があるのだろう。

 尊いもエモいも、現実世界では厳しい。それを得られるのは一部のカースト上位者だけ。

 昨日の帰り道はちょっとエモかったけど、あれは予行練習だからカウント出来ない。

「安藤って、来るの早いんだな」

 声のする方を見ると、佐野が爽やかに微笑んでいた。急いで身体を起こして、おはよう、と返す。

「今日も寒いな。早く冬休みになってほしい」

 佐野はそう言いながらポケットに手を入れ、缶コーヒーを出した。わたしの方へ、すっと近づく。