「おれさ、ナツミの前につき合ってた子がいたんだけど」

「えっ。ナツミがはじめての彼女じゃないの?」

「違うよ。高一の終わりにつき合ってた子がいる」

意外。
ひょろっとしていたせいか、そんなイメージがなかった。
てっきり芳賀の関心はアメコミヒーローだけだと勝手に思っていた。

よくわからない小さな軽いショックが広がる。

「せっちゃんさ、芳賀のくせにって、いま思ってたでしょ」

「それに近いようなことは思ってた」

「ちょっとは嘘ついてよ。
まぁとにかく、その子と別れたときに熱出して寝込むわ、テストで赤点とるわで大変だったんですよ」

「赤点は関係ないじゃん」

「あるよ」

「ない」

「とにかく、おれはどん底だったの。だけど、思ったんだよ。
おれの運命の相手は、きっとどこか他の場所にいるんだって。
もしかしたらその運命の相手も、どこかでおれと同じように泣いてるのかもしれないって。
そしたら、ちょっと楽になれた」

笑いながら泣いてるみたいな、泣きながら笑ってるみたいな。
見たことのない顔をして芳賀は続ける。