わんわん泣き喚くわたしに、「心変わりしたのは仕方ないにしても、それをずっと隠してキヨを欺いてきたのは、人としてどうかと思う」と正美ちゃんは冷静に言った。

 欺く。とたんにナオくんがまったく知らない男の人のように感じて、嫌悪感が沸き上がった。

 だけどその一方で、ちゃんと欺き通してほしかった、とも思った。

「先輩はちゃんとした誠実な人だよ。大丈夫だよ」

「おまえ、いくらなんでも信用するの早すぎだろ」

 正美ちゃんは身体をぐるんとわたしの方に回して、早口に言った。

「誠実な人ってなんだよ。たった数時間話してなにがわかるんだよ。知らないからな、また泣く羽目になっても」

「そんな言い方しなくても」

「飲み会でなんとなく盛り上がっただけの男だろ」

 大学の学食で、隣の席に座っていた男の人から「よかったら飲み会に参加しない? 一学期の締めってことで」と声をかけられたのがきっかけだった。正美ちゃんはちっとも乗り気じゃなかったけれど、わたしが押し切った。なんだかんだ正美ちゃんはわたしに甘い。