他人の空似じゃないか、と正美ちゃん越しに見える彼の顔を何度も何度も確認した。髪や髭はあのときと違って整えられていたものの、黒目は完全に一致した。何重にも重なる声のなかから拾った声も、たしかに彼のものだった。


 ――キヨ、なに見てるの。

 ――べつに、なにも見てないよ。それにしても評判どおりおいしいね、ここの学食。

 ――そうか? この肉じゃがとか、かなり味つけ濃いと思うけど。

 ――ううん。来てよかったよ。


 わたしは感謝した。評判のいい学食に足を運ぶ食いしん坊な自分に、「火曜は忙しいから、来るなら水曜にして」と言った正美ちゃんに、Suicaのチャージの列に横入りしてきたおばさんに、すべてに感謝した。ひとつでもずれていたら、わたしと彼はこうして再会することはできなかった。

 胸を打たれていると、ふいに彼と目が合った。彼は古いカメラのシャッターを押すようにぱちりとまばたきして、わたしを捉えた。

 やっぱり。やっぱり彼だ。