すれ違う男の人すべて、頭のなかでぼこぼこにした。性差別と言われようと、そんなことはかまわない。

 拳で、肘で、足で。ときにはバズーカ砲で。次々に男の人をなぎ倒していたとき、ふらふら歩く男の人が視界に入った。

 こいつはヌンチャクでやっつけよう。わたしはきりりと黒いラインの入った真っ黄色のコスチュームを纏い、アチョーと叫んで男を威嚇する。一歩、二歩。男との距離は順調に縮まった。

 よし、いまだ。男の顎下めがけてヌンチャクを振り上げた、そのときだった。

 赤く濡れた男の瞳は、とっぷりと失望の底にいた。虚ろでなにも見えない。なにも感じられない。わびしいわびしい、色のない世界。

 同じだ。この人も、わたしも。


 ――これ、よかったら。


 声をかけたのは同時で、息をのんだのは彼が先だった。

 わたしは大きな手に差し出されたティッシュをちらりと見て、それから改めて彼の顔を見た。濡れた目尻をゆるやかに下げ、彼は笑った。