「どうしたんですか。烏龍茶とかまだあったと思うんですけど」

「キヨちゃん。おれになんか隠してない?」

 先輩の声はひどくかすれていた。けれどその言葉は、深く鋭利に突き刺さった。

 ごくりと喉を鳴らし、動揺をのみこむ。間を空けたら怪しまれる。早く答えなきゃ。わたしらしく。明るく無邪気に。

「先輩、なに言ってるんですか。隠してることなんて」

 わたしの言葉を遮るように、先輩は右手を突きつけた。

 視界を阻む真っ白な封筒。その中央には夏の夜を切り裂くような力強い字で書かれた先輩の名前。

 ああ……――と胸のうちに悲鳴が広がって、絶望に消えた。

「転居届け出してなかったのはおれが悪いけど、渡してくれたってよかっただろ? なあ?!」

 脳髄まで痺れる怒声に、視界がぐわんと歪んだ。

 どうして手紙を棚の上なんかに置いてしまったんだろう。どうして先輩が住んでたアパートがここだったんだろう。どうしてわたしは好きな人の正解になれないんだろう。