カラオケの退出時間になり、須永さんとは店先でわかれた。
もう少しいっしょにいたいけれど、先輩はどう思っているだろう。口をむずむずさせていると、先輩が顔を覗きこんだ。
「キヨちゃんのアパート、行ってもいい? もう少しいっしょにいたい」
先輩の指が、指先に絡む。夜気を孕んだアスファルト。さやさやと草木が囁き合うなか、わたしたちは迷いなく歩きだした。
こんなに完璧な夜は、きっとどこにもない。わたしは強くそう思った。
「しかしキヨちゃんはとんだ大嘘つきだな」
「だって先輩が」
須永さんが大袈裟に言ったわけではなく、先輩はほんとうに音痴だった。それはもうフォローしきれないレベルの。
わたしはどうにか唇を噛んで笑いに耐えたけれど、須永さんは遠慮なくお腹を抱えて涙を流し、テーブルをひっくり返しそうな勢いで大笑いした。
そんな状況でも、先輩は最後まで歌いきった。ラブソングなんだろ、とぶっきらぼうに言って。
「だから歌いたくなかったんだよ」
「あれはあれでかわいかったですよ」
「あのなあ」
「動画に残せばよかったな」
「はっ倒すぞ」