――キヨちゃんのにおいがする。

 ――えっ。わたし、汗くさいですか。

 ――ううん。

 ――わたし、香水とかつけてないですよ?

 ――香水とか、そういうんじゃないよ。ていうか、もっと嗅ぎたい。嗅がせて。


 すんすんと鼻を鳴らし、先輩はわたしの知らないわたしを嗅いだ。なかなか野性的な友愛表現だった。

 気がつけば、女のかたちをした壺は姿を消していて、洗いざらしのシーツはパリッとしたシーツにかわっていた。

 そしてあるとき、先輩は言った。


 ――キヨちゃんといると、なんか落ち着く。おれ、運命とかそういう言葉って昔から好きじゃないんだ。なんかその言葉に酔ってるような、そういう感じがして。運命かどうかなんて、何年、何十年、なんなら死の間際までわかんないじゃん。でも、わかったかも。そういう言葉を使いたくなるような、そういう気持ちが。


 先輩がわたしといて落ち着くというのなら、わたしは先輩といるとものすごく単純な生き物になる。頭のなかは「好き」と「大好き」と「ああもう大好き」だけになって、胸はきゅんなんて生易しいものではなく、ぎゅうううっと締めつけられて、どうしようもなくなってしまう。

 そしてそのどうしようもなさは、わたしに潜む後ろめたさを、奥へ奥へと追いやってしまうのだ。