「改心したから。キヨちゃんとはそういう関係じゃないっていう証として。でも……ちょっと名残り惜しいから」

 そう言って、先輩は顔をぐっと近づけた。キスされるのかと思って咄嗟に目をつむると、先輩の唇はそこではなく、まったくべつのところへと這わされた。

 ささやかに立てられた犬歯に、きゅうっと摘まみ上げられる。胸のうちになにか淡いものがほとばしって、脳髄は甘く痺れた。

 陶酔のなかにいるわたしに、先輩が無邪気に笑う。

「うん。やっぱりいいお餅」

 その日から、先輩はわたしと会うたびに二の腕にやさしく歯を立てるようになった。

 それはまるで動物の甘噛みのようで、ますます先輩はでっちゃんは似てるな、と思った。試しに先輩の顎下を撫でると、「え、なになに? くすぐったいんだけど」とうれしそうに抵抗した。

 お互いのアパートを行ったり来たり。遊園地なんかにも足を運んでみたけれど、あまりの暑さにすぐにリタイアして、アパートで涼みながらじゃれ合った。