「キヨちゃん。おれ、こないだキヨちゃんとキスしそうになって、自分がしてきたこと後悔した。おれなんかがキヨちゃんにキスしたらだめだなって……」

「だめじゃないです」

「でも」

「だめじゃないです」

 気がつけば、わたしの瞳はみるみる透明に覆われて、わたしの腕は先輩の頭を強く抱きかかえていた。

 がばりと覆い被さるような、まるで布団になったような体勢。そんなことをした自分にびっくりしたけれど、腕の力をゆるめようとは思わなかった。先輩をすべて丸ごと抱きしめたかった。

「やっぱりいいお餅」

 わたしの二の腕に押しつぶされた先輩が笑って、吐息が胸にこもる。

 よかった。わたしがいいお餅を持っていて。

 しばらくそうしていたら、終電の時間はとっくに過ぎていた。これはお泊りコースかな、と考えていると

「ちょっと待ってて。タクシー呼ぶから」

 先輩はくぐもった声で言って、わたしのお餅をするりとほどいた。

「タクシーって……」

 思わず漏らすと、大きな手はやさしく乱暴にわたしを撫でた。