「……彼女とは、どうして別れたんですか」

「おれにもよくわかんない。別れようって言いだしたのは向こうで、すごいとつぜんだった。ぜんぜん、予兆とかなくてさ。理由を訊いても、なんか違うから、しか言ってくれなくて。その前に会ったときには、夏になったらフィジーに行こう、とか呑気に話してたはずなのにな」

 そんな理由、振られた方はずるずる引きずるだけじゃないか。せめてひとつくらい、具体的なことを言ってくれたらいいのに。そんな話し合いの余地もない理由、あまりにひどい。あまりに狡い。

 思わず顔を上げて、「そんな理由って」と言いかけると

「でも、そうなんだろうな。彼女にとって、おれはなんか違ったんだろうな。おれにとっては正解だったけど」

 ぽつりとつぶやき、先輩は遠くを見つめた。その瞳は暗闇よりもずっと暗くて哀しくて、闇の向こう側に引きずり込まれてしまいそうだった。

 先輩。

 引き戻すように指を握れば、視線はわたしへと戻された。

 先輩に、見てほしかった。別れた彼女ではなく、わたしを。わたしだけを。