先輩はすっと目を細めて壺を眺めながら

「あれはシーシャを吸うときに使うやつ」

 と答えた。

「シーシャってなんですか」

「水たばこ。煙草の一種だよ」

「先輩、煙草吸うんですね」

「や、いまはもう吸ってない」

 さりげなさを装って壺から逸らされた視線で、ああ、彼女といっしょに吸っていたんだな、と鈍いわたしでもわかった。

 捨てないんだ。

 自分だってナオくんとはじめていっしょに撮ったプリクラを一枚だけ手元に残しているくせに、そう思った。

「あのさ」

 ふいに先輩が切り出し、わたしは飲んでいたジンジャーエールを喉に詰まらせた。何度か咳をすれば落ち着くと思ったものの、咳はなかなか止まらない。焦れば焦るほど、喉も鼻も焼けるように痛い。

「キヨちゃん、大丈夫? 水とかいる?」

 げほげほむせるわたしの背中を、先輩は横に座ってずっとさすり続けた。

 みっともないところを見せてしまって恥ずかしい。だけど、この手をずっと捕まえていたい。

「すみません。もう大丈夫です。先輩、さっきなにか言いかけてましたよね」

 わたしがようやく息を整えると、先輩はわずかに顔を曇らせてから、なにかを決意するように口をひらいた。