バイトが終わり、先輩と駅前で待ち合わせた。先輩はとくに変わった様子もなく、「夜なのにあっちいな」と両手で顔を扇いだので、わたしのハンディ扇風機を貸した。風で煽られた前髪から、つるんとしたおでこが覗いてうれしくなる。
曖昧な距離を保ちながら、飲食店が立ち並ぶ通りを歩いた。けれど夏休みのせいか、金曜日のせいか、どこも満席だった。
「ごめん。おれが予約し忘れたから」
「いえ、わたしこそ先輩に任せっぱなしにしちゃって」
「あ、そうだ。ここから一駅だし、コンビニでなんか買っておれの家で食べる? 散らかってるし狭いけど」
「え、いいんですか? わーいっ」
はしゃぎながら、まったくべつのことを考えた。
いったいどれだけの女の子が先輩の家に行ったんだろう。ほんとうにお店は予約し忘れたんだろうか。いや、先輩はわたしになにもしなかった。きっと今夜だってなにもない。それはつまり、わたしが他の女の子に劣っているということか、ただの友達ということか――そんなことばかりが次から次へと頭に浮かぶ。須永さんの応援は強力な呪いでしかなかった。