カウンターの溝に入り込んでしまったケチャップは、かぴかぴに乾いてどうにも落ちなかった。仕方なく、わたしは人差し指の爪でケチャップを削る。

 ガリガリガリガリ。胸を抉る不快な音はまるで献身的な自傷行為で、脳みそが巨大なスポンジになったような気がした。

「それくらい放っておけばいいのに。キヨちゃんって真面目だね。感じ悪い客が来てもにこにこしてるし、ほんといい子だわあ」

 須永さんはそう言ってカウンターに寄りかかり、ちらりとわたしを見た。

「あのさ、キヨちゃんとあいつのこと応援するから、キヨちゃんもわたしのこと応援してよ」

「わたしが須永さんを応援?」

「ほら、キヨちゃんの従兄の」

「正美ちゃん?」

「キヨちゃん、正美ちゃんって呼んでるの? えー、わたしも正美ちゃんって呼びたいっ」

 身を捩った須永さんはほとんど歓声に近い声をあげた。いくら店長が休みとはいえ、ここまで堂々とサボるとは。

「ねえ、彼ってつき合ってる子はいるの? 彼のこと、みんなよく知らないって言うんだよね。キヨちゃんならいろいろ知ってるでしょ? 教えてよ」

 媚びるように下げられた眉とは裏腹に、たっぷりの自信がにじむ唇。全身で夏を謳歌しているかのようにこんがりと日に焼けた須永さんは、「わざわざ外に出て紫外線を浴びる意味がわからない」と言い切る正美ちゃんと並んだら、いいオセロの駒になりそうだった。正美ちゃんは昔から色が白い。