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「で、あいつとはどうなってるの?」
カフェのピークタイムが過ぎたころ、先輩の友達である須永さんがずっと待ち構えていたかのように訊いた。カウンターテーブルを拭いていたわたしの手が、一瞬止まる。直径の大き過ぎるカラーコンタクトで覆われた須永さんの目は、巨大マグロを彷彿とさせる。
「どうって……」
「キヨちゃんとあいつ、飲み会でめっちゃ意気投合してたじゃん。あれからどうなってるのか教えてよ」
無遠慮にギョロギョロ動く巨大マグロの目。わたしはそっと下唇を噛み、笑顔を浮かべた。
そんなのわたしが訊きたい。
一晩じゅう同じベッドにいたというのに、先輩はキスのひとつもしなかった。それどころか、わたしは拒絶された。
あの晩。暗いし心配だから、と先輩はわたしをアパートまで送ってくれた。
やっぱり少しだけキヨちゃんの部屋、見たいな。だめ? と上目遣いで訊かれて断れるわけもなく、じゃあ少しなら……と先輩を部屋に上げた。