「こいつ朝から元気だなあ。目、回んないのかな」

 デグーのでっちゃんはもうすぐ二歳で、人間に換算すると三十歳くらいになる。チンチラのような丸い身体とつぶらな瞳はいつ見ても愛くるしく、思わず抱きしめたくなるけれど、そんなことをしたら間違いなく潰れてしまうので、指先だけでちょいちょいと愛でる。顎下を撫でられるのがとくにお気に入りで、すぐにくったりと身体をあずけてくる。

「あ」

 無意識に声をあげると、まどろみかけていた先輩がわたしを見た。水で湿った唇をひらき、どしたの? と尋ねる。

「先輩の目って、似てます」

「似てる?」

「はい。でっちゃんの目に、似てます。真っ黒で、まん丸で」

「えー? 自分の目なんか普段ちゃんと見ないからなあ。そんなに似てる?」

 わたしはこっくり頷いた。

「それならキヨちゃんは、なんだろうな」

 先輩の黒目が、わたしを捉える。身体はすぐさま熱を上げ、摂取したばかりの水は蒸発した。

「んー……。鹿。小鹿っぽい」

「小鹿、ですか」

「うん。キヨちゃんは、小鹿」

 それはいいのか悪いのか。考えていると、黒目の矛先がかわった。