◆ ◆ ◆

 からからからからからからからから――まだ薄明るいなか、でっちゃんは今日も規則正しく世界を回す。

「これなに? なんの音?」

 先輩はむにゃむにゃ言いながら背中をぎゅううっと丸めた。まだ眠い寝る。駄々をこねる姿は子どものようで、くすぐったさと歯がゆさがこみ上げる。

 わたしは気怠い身体をベッドからずるりと這い上がらせて、キッチンへ向かった。ブラインドの隙間から落ちる、ボーダーの影。横断歩道のような影を踏みながら、これは青信号か赤信号か、はたまた黄色信号かとぼんやり考える。

「どしたの、キヨちゃん」

「喉が渇いて。先輩も水飲みますか」

「うん。飲みたい」

 先輩はのそのそと上半身だけを起こすと、冬眠明けの熊のように目をこすった。わたしもベッドに腰をかけて、グラスを渡す。触れ合った指先から昨夜を思い起こすと、腹の底がどんよりと重たく濁った。

 これは赤信号かもしれない。

 まだ半開きの目をした先輩は、ランニングホイールを回すでっちゃんのゲージを眺めている