「もちろん、カフェの雰囲気もすごくいいと思うんですよ。店長さんの好きなものがぎゅうっと詰まってて」

「うんうん。あの強面でブリキのおもちゃ好きっていうキャラもいいしな」

「ですね。あのギャップが」

「あ、じゃあさ。キヨちゃんの部屋は? 雰囲気よさそう。行ってみたい」

「えっ」

 反射的に大きな声を出て、慌てて口を閉じた。先輩の唇が、ゆるりと上がる。亜麻色の照明をたっぷり含んだ瞳は、一瞬たりともわたしから逸れてはくれない。

「だめ? 行かせてよ、キヨちゃんのアパート」

「でも」

「行きたい。行かせて?」

 意味を測りかねて、言葉に詰まる。先輩の声はそれまでよりもずっと甘く、テーブルの下ではわずかに爪先が触れ合っていた。

 これはわたしの自意識過剰なのか、それとも――。

「ははっ。冗談だよ、冗談。そんな困った顔しないでよ」

 先輩は肩を揺らしてくっきり笑った。よく響く大きな笑い声。崖から突き落とされたようなショックを一瞬だけ覚えて、すぐさま羞恥心に襲われた。