うさぎのイラストがプリントされたマグカップは、みーちゃんのお姉さんから子どものころにプレゼントされたものだと聞いていた。自分の話をするみーちゃんが、あんなにうれしそうに見えたのはあのときだけだった。
「どうしよう……」
 つぶやくと、閉じたつもりの鼓膜に猫たちの鳴き声が潜り込んできた。それはいつもの弱々しい鳴き声とは違う、なにかを訴えるような悲痛な鳴き声だった。
 吸い寄せられるように、足がベランダへ向かう。
 カーテンをめくれば空は均一に水色で、雲ひとつなかった。視界が半分になってしまうくらいの、まぶしいひかり。この陽射しなか、猫たちはなにをそんなに訴えているのだろう?
 もしかしたら、みーちゃんが帰ってくるかもしれない。そう考えるくらいには冷静だった。
 だけどやっぱり身体は考えなしに窓をあけて、隣のベランダを覗いていた。
 しばらく来ていないあいだに、仕切り板のチョコレート三粒ぶんの穴はクッキー二枚分に広がっていた。猫たちがよく見える。血がついてカピカピになった毛も、じくじくした傷跡も、よく見える。