「夕飯、なにがいい? みーちゃんが好きなものをつくるよ。できたらオムライス以外がいいけど、オムライスでもいいよ。なんでもみーちゃんが好きなものをつくるよ」
 できるだけ大きく笑ってみた。頬が痛い。叩かれたときに口の内側をうっかり噛んでしまったから、ところどころ粘膜がただれていた。
「……玉子」
「うん?」
「玉子買ってくるから、オムライスがいいな。あーちゃんのオムライス、食べたいなあ……」
 じんわりと滲んだ目をこすりながら、みーちゃんは言った。
 あの日、みーちゃんがわあわあキーキー言いながら冷蔵庫のものを壁や床や私に投げつけたから、玉子はもうひとつも残ってなかった。冷蔵庫のなかに使えるものはなにがあるだろう。どうにかなるか、と思いながらみーちゃんを見送った。
 ひさしぶりの、ひとりきりの時間。するするとほどかれていくような開放感――のはずが、みーちゃんはすぐに帰ってきた。
「やっぱり、今日は会社、休む……」
 みーちゃんはまるで自分が産んだみたいに、玉子のパックを大事そうに両手で抱えて言った。私はその姿に少し笑った。口のなかはやっぱりじくじくと痛んだ。