* * *

「いってらっしゃい、みーちゃん」
 翌朝、いつもどおり玄関で見送ると、みーちゃんは不安そうにTシャツの裾を握ってきた。あまりに強い力で握りしめるので、裾がびろびろに伸びた。
「どうしたの、みーちゃん」
 みーちゃんはなにも答えず、眉をきゅうっと寄せた。いつもと顔が違うと思ったら、お化粧がいつもよりずっと薄かった。今日は髪の毛もつやつやしていない。色のない唇は、ちいさくひらいた。
「ごめんね、あーちゃん……」
 ほんのわずかな風で吹き飛んでいってしまいそうな声。みーちゃんの顔が、ぐしゃぐしゃに歪む。お母さんに謝ってるときの私も、こんな顔だったのかもしれない。どんなに謝っても、お母さんは許してくれなかった。
「……みーちゃん」
 呼びかけると、大きく見開かれた瞳はぶるぶる震えた。それを癒すように手を握ってみても、震えは止まらない。私はみーちゃんになにができるだろう。