視線を動かすと、紫色の手首が視界に入った。すっかり縄が食い込んでしまった。この色を見ることはもうないと思っていたけれど、きっとずっとこの紫は、この身体から離れることはないんだ。それならいっそ、全身が紫色になってしまえば、なにも感じないですむのかもしれない。
 すっかり重たくなった瞼を落としかけると、静かに扉がひらいた。ゆらゆら揺れる大きな影。
「……あーちゃん」
 目の周りを真っ赤にしたみーちゃんが、薄ぼんやりと見える。その手元では、なにかが鋭くひかっていた。
 いよいよ刺されるのかな。
 起き上がろうとしても、すぐに身体が沈んで起き上がれない。ストローみたいなみーちゃんの腕に、こんなにも私を壊す力があるなんて知らなかった。
 そろそろと近寄ってくる、みーちゃんの影。私には逃げる力も、抗う力もない。
「動かないでね」
 みーちゃんはちいさく言ってから、手首の縄をちょきんと切った。解放された手首は息を吹き返したものの、行き場がわからなくなっていた。こうなってしまえば、もう自分の手首じゃなかった。