その瞬間、ぶすり、と箸が目玉焼きに突き立てられた。
 何度も何度も何度も、ピンクの箸は宙にあがっては真っ直ぐ振り落とされる。平和の象徴がぼろぼろ崩れていく。
 それでもみーちゃんの笑顔は固定されたままで、少しもぶれなかった。右手だけが機械的に昇降を繰り返す。固く引き結ばれた笑顔の唇が、血の色に染まった。
「みーちゃん? ねえ、唇から血でてるよ。どうしたの? なにか言ってよ、みーちゃん!」
「あーちゃん、どこで猫を見たの?」
「そ、れは……」
「外にもベランダにも出ないように言ったよね? ちゃんと家のなかにいたら猫なんて見えないよね? ねえ、どうやったら猫が見えるの?」
 教えてよ、あーちゃん――。
 甘く囁かれた声は、なにかが破裂する音に弾き飛ばされた。数秒の間をあけてから、頬を叩かれたことに気づいた。
 燃えるように熱い頬。それとは裏腹に身体のどこかが急速に温度を失って、細胞が静かに死んだ。
「あーちゃんが約束を破ったからだよ」